BCPの連携協定書の作成方法|連携するメリットや事例を紹介

トヨクモ防災タイムズ編集部
近年、大規模な自然災害の頻発や感染症パンデミックなど、企業の事業継続を脅かすリスクは多様化・増大しています。こうした予測困難な事態に備えるため、多くの企業がBCP(事業継続計画)の策定を進めていますが、自社単独での取り組みには限界があるのも事実です。
そこで重要となるのが、企業間あるいは企業と自治体などとの間で協力し、互いの弱点を補完し合う「連携」です。その連携体制を具体化し、実効性を持たせるために作成されるのが連携協定書となっています。
本記事では、BCPにおける連携協定書の役割とメリット、具体的な作成方法、注意点、そして実際の連携事例について、網羅的に解説します。

目次
BCPの連携協定書とは
連携協定書とは、企業間または企業と自治体の間で、災害時の相互支援や事業継続に関する協力体制を明文化する文書のことです。企業単独では対応できない課題に対して、複数の組織が連携して解決策を講じ、問題を解決することを目的としています。
複数の事業者が共同で事業を行う際には、役割分担や費用・収益の配分方法などを事前に明確にしておく必要があります。連携協定書は、その合意内容を文書に残し、事業を円滑に進めるための共通ルールを定める役割を果たすものです。
また、トラブル発生時には協定書をもとに対応の可否や責任範囲を確認できるため、紛争を長期化させずに解決できる可能性が高まります。法令で協定書の締結が義務付けられている場合もあり、その際は必要な内容を確実に盛り込まなければなりません。
なぜBCPで連携が必要なのか|単独対策の限界
多くの企業がBCPを策定していますが、自社だけでの対策では限界があるという認識が広がっています。
たとえば、2012年に北陸地方整備局 港湾空港部は、全国の製造業1万社を対象に、『事業継続に関するアンケート調査』を実施しました。大規模災害が発生した場合にBCPにより適切な事業継続ができるかという問いに対し、約37.8%の企業が「自社及び関係会社等、特定の企業単位での取組だけでは十分でない」と回答しています。つまり、4割近い企業が単独のBCP対策では事業継続に不安を感じているのです。
▲出典:事業継続に関するアンケート調査|北陸地方整備局 港湾空港部
この結果は、企業の事業継続を考える上で、自社だけでなく地域や他社を巻き込んだ連携体制の構築が不可欠であることを示しています。自治体や他企業との協力体制を平時から築くことが、緊急時の迅速な対応と事業復旧の要であるといえます。
BCPで自治体や他企業と連携するメリット
BCPにおいて自治体や他企業と連携することには、以下のようなメリットがあります。
- モノ・情報を共有できる
- 緊急時の交渉力を強化できる
- 拠点を多重化できる
モノ・情報を共有できる
自社のBCPでそれぞれが実施している作業のうち、共通している部分を連携して行うことにより効率化が図れます。たとえば、大規模地震の被害想定に関する情報は地域全体で共有して活用できるため、各企業が個別に調査する必要はなくなります。
また、非常用物資や資機材、情報通信機器の確保など、相応の投資が必要となる対策も、企業が連携して共有化すれば個社の投資額を抑えられます。
なお、自社で対応すべき対策は、従来通り自社で対応するため、すべて他社と共有するわけではありません。
緊急時の交渉力を強化できる
大規模災害の発生時には、設備メンテナンスや物流などの外部事業者との連携が早期復旧の鍵となります。しかし、緊急時にはこうした事業者は供給不足となり、企業単体では優先的な対応を受けるのが難しくなります。その際、地域連合として集団で交渉することにより、交渉力が大幅に強化されるのです。
外部事業者からすれば、地域内企業の窓口が一本化されることにより個社ごとの調整が不要となり、結果的に地域全体の優先順位が高まります。また、スケールメリットによるコスト効率化も期待できるため、双方にとってメリットのある関係が構築できます。
自治体や行政との交渉においても、同様の効果を期待できます。インフラ関連整備などの要望を地域として取りまとめて伝えることにより、より迅速な対応を引き出せる可能性が高まります。
拠点を多重化できる
他企業と連携するメリットの1つは、拠点の多重化を図れることです。複数の拠点を自社内で用意するのは難しい場合でも、他社や他地域の協力先とあらかじめ代替生産契約を結んでおけば、災害時の事業継続が現実的になります。
たとえば、大規模災害が発生しても、被害の少ない近隣企業の施設を臨時の活動拠点として活用すれば、早期の業務再開が可能になります。また、備蓄物資を分散保管しておくことにより、物流網が一部寸断された場合でも対応を継続することが可能です。さらに、遠隔地の協力企業での代替生産が可能になれば、自社の生産設備が停止しても製品供給を続けられるため、取引先からの信頼を損なうリスクも抑えられます。
このように、地域内外の企業と連携しておくことは、物理的な被害だけでなく、顧客からの信用を失わずに事業を継続するためのリスク軽減にもつながります。
連携協定書のひな形・主な項目
連携協定書の主な構成は、以下のとおりです。内容は連携の種類や目的によって調整が必要ですが、基本的な構成として参考にしてください。
●●に関する連携締結書 ○○(以下「甲」という)と□□(以下「乙」という)は、○○年○○月○○日付で下記の通り「●●に関する連携協定書」を締結する。 第1条(○○)************************* 第2条(○○)************************* (以下、条文が続く) この協定の締結を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各1通を保有する。 令和○○年○○月○○日 甲:○○県○○市○○町○○ 株式会社○○ 代表取締役 □□ □□ 印 乙:○○県○○市○○町○○ 株式会社○○ 代表取締役 □□ □□ 印 |
ここからは、連携協定書の各項目について順に解説していきます。
表題
協定書の冒頭には表題を記載します。単に「協定書」とするだけでは、あとから何を締結したかわかりにくくなってしまいます。複数の協定書を締結しても内容が区別できるように、一目で協定の目的や内容が理解できる表題を記載しましょう。
【表題の例】
- 災害時における相互応援協定書
- 事業継続に関する企業間連携協定書
- 地域連携BCP推進に関する協定
- 非常時における物資供給に関する協定書
前文
協定書の前文は、表題の直後に記載する部分です。協定を締結する当事者と協定締結の目的や締結日などを簡潔に示します。
【前文に記載する項目】
- 当事者の名称
- 連携協定書の締結日
- 連携協定書を締結する目的
前文には、締結当事者の名称(自治体名や企業名、団体名など)を明記し、通常は「甲」「乙」などの呼称を定義します。三者以上の場合は「丙」「丁」と続きます。また、協定を締結する目的についても簡単に触れることにより、協定締結の意義が明確になります。
たとえば「大規模災害発生時における相互支援体制の構築を目的として」や「地域の防災力向上と迅速な事業復旧を目的として」といった表現を用いることにより、協定の目的が明確になります。
条文化した合意内容
協定書の本文部分には、合意内容を条文形式で記載します。各条項には第1条、第2条と見出しをつけ、内容を明確に区分します。
規定する内容は協定書によって異なりますが、BCPの場合には、以下の項目は最低限定めておきましょう。
【BCPの連携協定書で規定する事項の例】
- 連携の目的
- 人的支援・物的支援の内容
- 費用負担 など
署名捺印欄
協定書の末尾には、締結当事者が署名捺印を行う欄を設けます。この部分は協定書の有効性を担保するための重要な要素です。
【署名捺印欄の項目】
- 締結年月日
- 当事者の住所
- 当事者の名称
- 当事者の押印
- 協定書の作成部数と保有部数
署名捺印欄の前には「この協定の締結を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。」という文言を入れ、作成部数と各当事者の保有部数を明記します。
BCPの連携協定書を作成する際の確認ポイント
BCPの連携協定書を作成する際は、単なる形式的な文書にならないよう、実効性と運用性を重視することが大切です。いざというときに機能する協定書とするために、以下のポイントを確認しましょう。
- 合意内容が明確に記載されているか
- 法令上規定が必要な内容が漏れていないか
- 公序良俗や強行規定に反していないか
- 自社に不利な状況は含まれていないか
合意内容が明確に記載されているか
協定書に記載される合意内容は、具体的かつ明確でなければなりません。曖昧な表現や解釈の余地がある記載は、いざという時の混乱や対応の遅れを招きかねないからです。とくに災害時の混乱した状況下では、協定書の内容を一義的に理解できることが重要です。
たとえば「適切な支援を行う」という抽象的な表現では、具体的にどのように支援してもらえるのかわかりません。「物資(食料、飲料水、毛布等)を○○個以上提供する」など、具体的な数量を明記することにより実効性が高まります。
法令上規定が必要な内容が漏れていないか
連携協定書が関連法令に準拠していると確認することも重要です。法令上必要な規定が漏れている場合、意図せずとも法令違反となってしまうため、記載事項に漏れがないように連結協定書の内容と法令を慎重に確認しましょう。
担当者だけでは見落としてしまうこともあるため、複数人によるダブルチェックやトリプルチェックを実施するのも、1つの手です。
公序良俗や強行規定に反していないか
協定書の条文が公序良俗や法律の強行規定に反している場合、該当する条文は無効となります。1つの条文が無効になることにより、ほかの条文に影響を与える可能性もあるため、連携協定書を作成した際には専門家に確認してもらうことをおすすめします。
自社に不利な条項は含まれていないか
連携協定書を締結する際は、自社にとって不当に不利な条項が含まれていないか確認することが重要です。とくに相手方が作成した協定書案を検討する場合は、自社の事業継続に影響を与える可能性のある条項がないか、注意を払いましょう。
自社にとって不利な条項を含んだまま押印してしまうと、内容に同意したことになります。トラブルを避けるためにも、しっかりと内容を確認した上で押印することが重要です。
BCPの連携協定を締結した事例
BCPの連携協定を締結した事例として、神奈川県メッキ工業組合と新潟県鍍金工業組合の間で締結された災害時における相互応援協定を紹介します。地理的に離れた同業種組合同士が、災害時の事業継続を相互に支援する協定で、2011年4月に締結されました。
協定の主な内容は、災害時に両組合の企業同士による代替生産などの相互連携を支援するものです。具体的には以下のような支援が含まれています。
- 被災した組合員に対する応援支援物資、資材の供給
- 被災した組合員への応急対策及び復旧作業に従事する登録組合員の派遣
- 被災した組合員に対する代替の加工先の紹介 など
この取り組みは、後に「お互いさま連携」として新潟県内の中小企業100社以上が参加する仕組みに発展しました。地理的に離れた地域間での連携は、同時被災のリスクを低減させる効果があり、BCPの実効性を高める優れた事例といえるでしょう。
(参考:「地域連携」を活用した事業継続計画のススメ|北陸地方整備局 港湾空港部)
BCP対策には『安否確認サービス2』の導入がおすすめ
▲出典:安否確認サービス2
連携協定を効果的に機能させるためには、平時からの情報共有はもちろん、緊急時における迅速かつ確実なコミュニケーション手段の確保が不可欠です。とくに、災害発生直後には、まず「自社の従業員が無事であるか」や「誰が出社可能であるか」といった安否確認を迅速に行い、状況を把握する必要があります。そこで、多くの企業が導入しているのが安否確認システムです。
なかでも、トヨクモ株式会社の『安否確認サービス2』は、操作のしやすさと高い安定性から導入実績を伸ばしています。国内4,000社以上が利用しており、継続率は99.8%という高水準を誇ります。
このサービスの特徴の1つが、メインサーバーを災害リスクの低いシンガポールに設置している点です。地震や津波の心配が少ない環境に置かれているため、日本国内で大規模災害が発生しても、システムそのものが影響を受けにくく、非常時にも安定して機能します。
【安否確認サービス2の料金プラン】
プラン | ライト | プレミア | ファミリー | エンタープライズ |
料金(税込)※ | 7,480円 | 9,680円 | 11,880円 | 16,280円 |
主な機能 | ・手動一斉送信 ・自動集計 ・掲示板 ・メッセージ ・LINE連携(オプション) | ・手動一斉送信 ・災害連動の自動一斉送信 ・自動集計 ・掲示板 ・メッセージ ・LINE連携(オプション) ・ファイル添付 ・SmartHR人事情報連携 ・freee人事情報連携 ・kintoneアプリ連携 | ・手動一斉送信 ・災害連動の自動一斉送信 ・自動集計 ・掲示板 ・メッセージ ・LINE連携(オプション) ・ファイル添付 ・SmartHR人事情報連携 ・freee人事情報連携 ・kintoneアプリ連携 ・家族の安否確認 | ・手動一斉送信 ・災害連動の自動一斉送信 ・自動集計 ・掲示板 ・メッセージ ・LINE連携(オプション) ・ファイル添付 ・SmartHR人事情報連携 ・freee人事情報連携 ・kintoneアプリ連携 ・家族の安否確認 ・API人事情報連携 ・グループ会社との利用 |
※50ユーザーまで利用する場合
30日間の無料お試し期間が用意されているため、実際の使い心地を確かめてから導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ:自治体・他企業との連携がBCPの実効性を高める
BCPの連携協定書は、自社のみでは対応できない大規模災害に備えるための重要なものです。自治体や他企業との連携には、モノ・情報を共有できる、緊急時の交渉力を強化できるなどのメリットがあります。これらのメリットを享受するためには、連携協定書の作成が不可欠です。
連携協定書を作成する際は、本記事で紹介した作成時の注意点を参考にしてください。法令上規定が必要な内容が漏れていると法令違反になったり、公序良俗や強行規定に反する内容の場合には該当の条文が無効になったりします。いざというときに効果を発揮できない事態を防ぐためにも、作成時は専門家に確認してもらうことがおすすめです。
連携という選択肢を取り入れることにより、BCPの実効性を高め、変化に強くしなやかな企業・組織を目指してみてください。