リスクアペタイトフレームワークとは?メリットや導入手順を解説

トヨクモ防災タイムズ編集部のサムネイルアイコン

トヨクモ防災タイムズ編集部

企業の経営に携わる中で「リスクアペタイトフレームワーク」という言葉を見聞きし、自社のリスク管理に役立つ手法か気になった方もいるのではないでしょうか。

リスクアペタイトフレームワークとは、金融機関におけるリスク管理のために考え出された手法を指します。また、金融業界以外の企業においても、経営リスクの管理にリスクアペタイトフレームワークが有効です。

本記事では、リスクアペタイトフレームワークの概要や導入するメリット、導入手順などについて解説します。企業のリスク管理に携わる方はぜひ参考にしてください。

リスクアペタイトフレームワークとは

リスクアペタイトフレームワークとは、経営においてどの程度のリスクを取り、どれだけの収益を得るかを効果的に管理するための仕組みです。リスク認識の共有だけでなく、経営計画の策定や実績のモニタリングなど、アクションを実行するための一連の仕組みがリスクアペタイトフレームワークに含まれます。

リスクアペタイトフレームワークは、リーマン・ショック以降に、金融機関の新しいリスク管理の方法として提唱された考え方です。それまでは、いまある資産をどう守るかという視点で金融機関のリスク管理が行われていましたが、この方法では将来起こり得る未知のリスクへの対応が難しいという課題がありました。そこで、将来のリスクまで考慮して経営を行うために考え出された新たな枠組がリスクアペタイトフレームワークなのです。

また、従来は収益部門と企画部門が別々にプロジェクトを実行していましたが、リスクアペタイトフレームワークでは全社的にリスク認識を共有し、収益とリスクの両方をふまえて事業が運営されます。

リスクアペタイトフレームワークを導入するメリット

リスクアペタイトフレームワークの導入で期待できるメリットは3つ挙げられます。

  • 想定外の損失を回避しやすくなる
  • リスクをふまえて収益の最大化に取り組める
  • ステークホルダーへの説明責任を果たせる

それぞれについて解説します。

想定外の損失を回避しやすくなる

リスクアペタイトフレームワークを導入すると、経営リスクを早い段階で検知できるため、損失を回避するための対応をとりやすくなります。

経営において、想定外のリスクを完全に避けることは難しいでしょう。たとえば、収益目標を達成するために新たな分野で事業を立ち上げたものの、思うように市場が拡大せず損失が出てしまうといった失敗も起こり得ます。

リスクアペタイトフレームワークを導入し、社内の各部門間でのリスク管理に関するコミュニケーションが活発になると、リスクにつながる小さな変化を見落とさず、早めに対処できます。

リスクをふまえて収益の最大化に取り組める

単に経営リスクを回避するだけでなく、リスクをふまえて収益の最大化に取り組めることも、リスクアペタイトフレームワークを導入するメリットです。

リスクアペタイトフレームワークでは、収益を得るためにどの程度までのリスクを許容できるかを決めます。あえてリスクをとる範囲を具体的に決めることにより、業務計画と収益計画が明確になり、リスクと収益を適切に管理できるようになるのが特徴です。

また、リスクアペタイトフレームワークを導入すると、リスクと収益の将来的な変化を考慮して経営計画を立てられます。そのため、短期的な目標達成のためにリスクをとった結果、長期的な収益が損なわれてしまうといった失敗を防ぎやすくなります。

ステークホルダーへの説明責任を果たせる

リスクアペタイトフレームワークは、自社の経営に関わるステークホルダーへの説明責任を果たすツールとしても有効です。

リスクアペタイトフレームワークを運用する際は、ステークホルダーから自社へのニーズを整理した上で、リスクの管理を行います。そのため、リスクアペタイトフレームワークを導入すると、ステークホルダーに対してリスクテイクの方針を開示できます。

たとえば、顧客に対して商品の品質や価格について説明したり、株主に対して利益や株価、配当の妥当性を説明したりできるでしょう。また、従業員や地域社会などに対する説明責任を果たすためにも、リスクアペタイトフレームワークが有効です。

金融業界においては、第三者が銀行などを監督する場合の判断基準としてもリスクアペタイトフレームワークが活用されます。

リスクアペタイトフレームワークの導入手順

リスクアペタイトフレームワークを導入・運用する手順は、以下のような工程に分けられます。

  • ステークホルダーニーズと組織の方針の把握
  • リスクアペタイトの明確化
  • リスクアペタイト・ステートメントの設定
  • リスクアペタイトのモニタリング

各工程について、具体的に解説します。

ステークホルダーニーズと組織の方針の把握

まずは、自社の事業運営に関係する主要なステークホルダーについて、自社に対してどのようなニーズを持っているかを具体的な指標として整理します。

たとえば、金融機関であれば株主や債権者、格付機関、預金者などのステークホルダーが考えられます。株主にとって重要な指標は、資本の効率性や収益などです。一方、債権者にとって重要な指標には、目標とする債務格付けの維持や、債務弁済能力などがあります。これらのように、ステークホルダーのニーズに関する指標を洗いだしましょう。

また、企業の経営層に対するインタビューを通じて、リスクに対する組織の方針も把握しておく必要があります。リスクの取り方について具体的に決めていくための準備として、経営層の考えや姿勢を明確化しておくことが重要です。

リスクアペタイトの明確化

次に、ステークホルダーニーズと自社のリスクに対する方針をふまえて、リスクアペタイトを明確化します。リスクアペタイトとは、自社の事業計画や目標達成のために、どのような種類のリスクをどれだけ受け入れるかを策定したものです。

経営層へのインタビューでは、リスクアペタイトが必ずしも具体的な指標として示されるとは限りません。経営層の意向をふまえて、リスクアペタイトの指標や数値を決めることが重要です。

リスクアペタイトと関連する用語として、「リスクキャパシティ」や「リスクプロファイル」などが挙げられます。リスクキャパシティとは、企業として許容できる最大限のリスクを指します。また、リスクプロファイルは、現時点で実際に発生しているリスクの種類や量を表すものです。

リスクアペタイトフレームワークを運用する際は、リスクプロファイルがリスクアペタイトの範囲内に収まっているかを確認するためのモニタリングが実施されます。リスクアペタイトの範囲を超えるリスクが確認された場合は、リスクの取り方やリスクアペタイトの設定を見直す必要があります。

リスクアペタイト・ステートメントの設定

リスクアペタイト・ステートメントとは、自社のリスク管理の方針を記載した文書です。リスクアペタイトには、企業の経営戦略に関連した指標について、リスクを受け入れる具体的な基準を記載します。金融機関におけるリスクアペタイト・ステートメントで記載される主な指標には、以下のようなものがあります。

【収益性に関する指標】

  • 株主資本利益率
  • リスクアセット利益率
  • 収益変動性など

【健全性に関する指標】

  • 自己資本比率
  • 経済資本
  • 規制資本
  • 期待損失/引当金額
  • 与信集中度など

【成長性に関する指標】

  • 粗利
  • 純利益など

【流動性に関する指標】

  • 流動性カバレッジ比率など

これらの指標について過去のデータの変動を分析した上で、どこまでのリスクを許容するかをリスクアペタイト・ステートメントに記載します。または、不測の事態が発生した場合に維持する各指標の水準を記載することも有効です。

不測の事態による影響や損失をシミュレーションする手法は、ストレステストと呼ばれます。ストレステストで想定する事態には、自然災害による損失や株価の暴落、経済状況の大幅な悪化などさまざまなトラブルが含まれます。

リスクアペタイトで設定した指標のモニタリング

リスクアペタイトフレームワークを効果的に運用するためには、リスクアペタイトで設定した指標を日々の業務の中でモニタリングし、適切なアクションを実行していくことが重要です。リスクアペタイトへの抵触が実際に発生する前に対策を取ることが、経営リスクの回避や収益の最大化につながります。

リスクアペタイトで設定した指標を現場でどのようにモニタリングするかを決め、定期的な評価と見直しを行いましょう。リスクアペタイト・ステートメントに盛り込んだ各指標をダッシュボードに整理し、全社で共有すると効率的なモニタリングが可能です。

リスクアペタイトは、収益を得るためにどの程度のリスクを許容するかを定めた水準のため、許容値を超えそうな場合だけでなく、大幅に下回りそうな場合にもアクションが求められます。

リスクアペタイトで定めた許容値に対して大きく下回る指標が確認された場合、機会損失が発生している可能性があります。リスクを抑制している原因の特定や、新たな投資機会の検討などのアクションが必要です。

リスクアペタイトフレームワークを導入する際の留意点

リスクアペタイトフレームワークを導入する際の留意点として、以下の3つが挙げられます。

  • 導入の目的やゴールを各部署で共有する
  • 想定されるリスクを幅広く洗い出す
  • 導入後の効果検証と見直しを定期的に行う

それぞれのポイントについて解説します。

導入の目的やゴールを各部署で共有する

リスクアペタイトフレームワークを導入する目的やゴールについて、プロジェクトの初期段階で明確にし、各部署で共有することが重要です。何のためにリスクアペタイトフレームワークを導入するかの認識がずれていると、議論がまとまらず必要以上に時間がかかってしまう可能性があります。

また、リスクアペタイトフレームワークの運用には経営層以外にも、事業部門や財務部門など多くの部署が関わります。各部署の方向性を統一するためには、自社が目指すゴールを共有することが重要です。

想定されるリスクを幅広く洗い出す

リスクアペタイトを設定する際に、想定されるリスクの種類を幅広く洗い出すことも、リスクアペタイトフレームワークを活用するためのポイントです。

経営に影響を与えるリスクは、市場環境の変化や為替変動、不祥事によるレピュテーションリスクなど多岐に渡ります。また、地震や洪水といった自然災害、サイバー攻撃なども考慮するべきリスクです。これらの幅広い事態を想定しておくことで、実際にリスクが発生したときの対処を適切に行い、損失を最小限に抑えられます。

導入後の効果検証と見直しを定期的に行う

リスクアペタイトフレームワークを導入した結果、どの程度の効果が得られたかを検証し、定期的に見直しを行うことも重要です。収益の変化やリスクへの対処などの状況を月次や四半期ごとなどに確認し、必要に応じた改善を行いましょう。

また、市場や経済などの外部要因の変化に対応するためにも、定期的な見直しが必要です。リスクアペタイトに盛り込む指標や、各指標のリスクの許容値などが適切かを検討することで、リスクと収益の管理を適切に実施できます。

まとめ:リスクアペタイトフレームワークで経営リスクに備えよう

リスクアペタイトフレームワークは、想定される経営リスクを洗い出し、リスクと収益のバランスを最適化するための考え方です。導入することにより、想定外の損失を回避しつつ、収益の最大化に取り組めるようになります。

リスクアペタイトフレームワークの導入手順には、リスクアペタイト・ステートメントの設定や、リスクアペタイトのモニタリングなど複数の工程があります。経営層だけでなく社内の各部署と連携してリスクアペタイトフレームワークを運用し、経営リスクに備えましょう。

災害による経営リスクに備える際は、トヨクモの『安否確認サービス2』がおすすめです。安否確認サービス2を導入すると、災害時の従業員の安否確認や、対策指示の共有などをスムーズに行えます。また、導入により、従業員の防災意識を高めることにもつながります。企業のリスク管理に携わるご担当者の方は、ぜひ安否確認サービス2の導入をご検討ください。

イベント・セミナー

オンライン

トヨクモ防災DAY 2025

  • 開催:2025/01/28
  • オンライン

お役立ち資料


私たちのサービス

もしもの安心を、
かんたんに。

被災時情報収集・対応指示を効率化

想定外に、たしかな安心「安否確認サービス2」
パソコンとスマートフォンで安否確認サービスを開いている