環境マネジメントシステムとは?導入のメリットと具体例を紹介

遠藤 香大(えんどう こうだい)
環境マネジメントシステムは、地球環境への負荷を減らし、持続的な発展をするために重要な仕組みです。今回の記事では環境マネジメントシステムのメリット、導入目的、認証規格、具体例などについて紹介します。
目次
環境マネジメントシステムとは
環境マネジメントシステムとは何でしょうか。ここでは定義のほか、導入目的や得られるメリットについても紹介します。なぜ必要なのか、どのように有益なのかを理解しましょう。
環境マネジメントシステムは環境経営の仕組み
組織や事業者が経営において、環境保全に関する方針や目標を設定して取り組むことを「環境管理」または「環境マネジメント」と呼びます。そして、そのための体制や手続きの仕組みが「環境マネジメントシステム」です。
環境方針の作成や実行における組織体制、計画活動、責任、慣行、手順、資源などが含まれます。英語の「Environmental Management System」を略して「EMS」と呼ばれることもあります。
環境マネジメントシステムを導入する目的
企業を持続的に発展させるためには、環境への負荷を減らす必要があります。
組織の運営には、環境にとって悪い影響が伴うこともあります。組織には環境に悪い影響を減らすことが求められており、そのための仕組みが環境マネジメントシステムなのです。
環境マネジメントシステムのメリット
環境マネジメントシステムを構築するメリットとしては、環境志向のある取引先に自社製品をアピールできる、組織のイメージが向上する、ビジネスチャンスの創出につながるなどが挙げられます。
また、経営方針を組織全体に広めることで、従業員の意識を改革したり、体制を強化したりすることが可能です。加えて、環境保全に対する取り組みの手順が明確化されていると、環境経営を効率よく進められます。
環境マネジメントシステム認証規格の種類
環境マネジメントシステムの認証規格には、いくつか種類があります。ここからは、代表的な認証規格をふたつ紹介します。取得したい認証規格について、事前に知っておきましょう。
国際規格ISO14001
「ISO14001」とは、国際標準化機構が定めている環境マネジメントの国際規格です。
消費者や投資家が企業の環境保全活動を評価するために用いるもので、官公庁の入札の評価基準にもなります。ただし、環境リスクの洗い出しなど相当な手間もかかるために、大企業を中心に適している制度かもしれません。
この制度では経営に対して環境の基準を取り入れます。企業は環境、社会、経済のバランスを維持しつつ、PDCAサイクルを運用することが求められます。具体的には、製品やサービスの開発段階から、ライフサイクルを考慮して取り組むことなどが効果的でしょう。
(参考:一般財団法人日本品質保証機構「ISO 14001(環境)」)
エコアクション21
「エコアクション21」は、環境省が策定した日本独自の認証規格です。環境に配慮した取り組みを行いたい組織や事業者は、エコアクション21を参照しましょう。
把握する必要がある環境負荷として、二酸化炭素排出量、廃棄物排出量、水使用量が設定されています。
自治体によっては認証取得の費用を一部負担する制度もあります。ISO14001と比較すると日本国内で通用する規格ですが、ISOよりは手間も少ないため、こちらは中小企業に適した制度かもしれません。
ISO14001とエコアクション21の違い
先ほど紹介した「ISO14001」と「エコアクション21」は、どちらも環境マネジメントシステムの認証規格です。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。3つの視点から両者を比較し、違いを解説します。
規格の制定者・対象
両者の大きな違いとして、規格の制定者が挙げられます。
ISO14001は国際標準化機構が定めた国際規格です。そのため、海外取引のある組織に向いているでしょう。
対して、エコアクション21は環境省が定めた国内規格です。国内規格の取得で十分と感じる組織は、エコアクション21を取得することをおすすめします。
登録に必要なコスト
登録に必要な費用を比較すると、エコアクション21のほうが安価です。
たとえば従業員100人の組織を想定した場合、目安としてエコアクション21は約30万円、ISO14001は約160万円かかります。ただし、ISO14001に必要な費用は業種や規模などで変動します。
取り組みの内容
両者は取り組みの内容も異なります。
ISO14001では、自社がどのような内容で環境活動に取り組むのかを、経営課題に応じて設定します。文書の基準や様式は不問です。
対してエコアクション21は、環境レポートの形式に則って作成します。二酸化炭素、廃棄物、化学物質の削減や節水に関して、3年間の実績報告が必要です。文書の基準や様式が定められており、形式に則ってレポートを作成するので、書類としては作成しやすいでしょう。
環境マネジメントシステムの具体例
現在、日本各地のさまざまな企業が環境マネジメントシステムを構築し、持続可能な発展に向けての取り組みを進めています。ここからは、環境マネジメントシステムを取り入れている企業の具体例と、その取り組みについて紹介します。
JALグループ
機内食を提供するグループ会社であるジャルロイヤルケータリングは、2021年にISO14001を取得しました。そのほかのグループ会社も独自の環境マネジメントシステムを構築・運営していて、環境活動に関わる法令やルールの遵守、環境負荷低減、汚染予防に努めています。
重要な環境目標については、グループが取り組む課題として策定している点も特徴です。「気候変動への対応」は取締役会で討議・評価されます。
(参考:日本航空株式会社「環境にやさしい機内食をめざし、JALグループの機内食会社がISO14001認証を取得」)
ソフトバンク株式会社
ソフトバンクでは、計19の事業所でISO14001認証を取得しています。
環境問題を経営課題として捉え、環境マネジメントシステムを構築しているのです。具体的に推進している取り組みとしては、使用済み携帯電話のリサイクル促進が挙げられるでしょう。
社会の環境意識が向上したことに伴い、新たな要望にも対応するため、継続した改善も行っています。
(参考:ソフトバンク株式会社「ESGデータ」)
ライオン株式会社
ライオンは2019年、世界目標の達成に貢献すべく、生産系事務所についてISO14001の認証を取得しました。事業活動、製品、サービスが環境に及ぼす影響を評価し、環境保全活動の継続的な改善に利用しています。
環境マネジメントシステムはBCP(事業継続)対策のひとつ
組織が安定した活動のために策定しておくものとして、BCPがあります。BCPとは、Business Continuity Planの略で、日本語では「事業継続計画」などと訳されます。自然災害やテロ、感染症などに対して、被害を最小に抑えるとともに、たとえ被害・影響が出てしまったとしても、適切な対応で速やかに事業活動を復旧・継続させることを目的とした計画です。
BCP対策の一環として、今回紹介した環境マネジメントシステム(EMS)があります。たとえば、電気やガスなどのエネルギーを過剰に消費していないか把握することで、災害時に確保すべきエネルギーの量を減らすことができ、備蓄のコストを削減したり、復旧までの時間を短くすることもできます。
環境マネジメントシステムを取り入れて、企業の価値をあげよう
環境マネジメントシステムの概要や具体例を紹介しました。環境マネジメントシステムの構築には、組織のイメージ向上、ビジネスチャンスの創出、意識向上、体制強化などさまざまなメリットがあります。また、BCP対策の一環としても有効であり、ぜひ取り組みを検討してみてください。