運輸防災マネジメントとは?考慮すべき点や課題、取り組みの事例を紹介

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トヨクモ防災タイムズ編集部


運輸業界における防災マネジメントは、災害発生時における人命の安全確保、そして経済活動や国民生活を支える社会インフラとしての機能維持のために、極めて重要な取り組みです。災害大国である日本において、その強化は運輸事業者にとって喫緊の課題となっています。

本記事では、「運輸防災マネジメント」とは何か、その目的や国土交通省の指針における位置付けを解説します。さらに、防災対策を進める上での重要ポイントや業界が抱える課題、具体的な対策や取り組み事例まで、分かりやすくまとめています。

運輸事業者はもちろん、自治体や企業の危機管理・BCP担当者にとっても有用な情報を提供しているので、ぜひ本記事を参考にして、防災体制強化にお役立てください。

運輸防災マネジメントとは

運輸防災マネジメントとは、運輸事業者が災害発生時においても、人命を守り、事業を継続するために行う一連の活動です。具体的には、災害リスクの評価、防災計画の策定、訓練の実施、情報共有体制の構築などが含まれます。

運輸防災マネジメントは、近年、その重要性が高まっています。その背景には、地球温暖化に伴う自然災害の激甚化・頻発化、社会インフラとしての運輸機関の役割の増大、事業継続計画(BCP)の重要性の高まりなどがあります。

運輸防災マネジメント指針の位置付け

国土交通省は、運輸事業者が効果的な防災対策を実施するための指針として、「運輸防災マネジメント指針」を策定しています。ここでは、その目的と対象を詳しく見ていきましょう。

目的

運輸防災マネジメント指針とは、運輸事業者が防災体制の構築・実践に取り組むにあたってのガイダンスを記しています。

運輸防災マネジメント指針の目的は、主に利用者や従業員の安全確保、そして事業の継続です。そのために欠かせない計画の策定、体制の構築、訓練の実施などを総合的に推進し、災害に強い安全・安心な運輸システムを構築することを目的としています。

運輸防災マネジメントと似たものに、運輸安全マネジメント制度があります。運輸安全マネジメント制度は平成18年に発足したもので、ヒューマンエラーや自然災害など事故が起きた際、利用者や従業員の安全を確保するために作られたものです。その後、地震や台風などといった自然災害の増加を踏まえ、「災害への事前の備え」についてもより深く考えられるようになりました。

令和5年3月には、その重要性を強調するために「運輸防災マネジメント指針」の改定が行われており、運輸防災マネジメント指針は、運輸安全マネジメント制度を補完し、より具体的な自然災害対策を推進するための重要なツールと位置づけられています。

対象

運輸防災マネジメント指針は、以下のような運輸事業者を対象としています。

  • 鉄道事業者
  • バス事業者
  • タクシー・ハイヤー事業者
  • トラック事業者
  • 海運事業者
  • 航空事業者

これらの事業者は災害発生時においても、輸送サービスの提供や物資の輸送、避難支援などの重要な役割を担います。そのため、本指針に基づいて適切な防災対策を講じることが必要です。

また、指針によって守られるべき対象としては以下も含まれています。

  • 利用者
  • 荷主
  • 運輸企業の社員
  • 地方公営企業
  • 関係団体の職員など

利用者や荷主に加えて、社員や関係団体の職員も含まれていることが分かります。

自然災害対応において考慮すべき点

自然災害対応において考慮すべき点としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 楽観主義をなくす
  • 平常時から「備え」をしておく
  • 被害拡大防止に努める
  • 他の事業者と連携する

正しい対応をするためにも、ぜひ参考にしてください。

楽観主義をなくす

自然災害は、「いつ」「どこで」発生するか予測できません。過去の経験や想定にとらわれず、常に最悪の事態を想定し、あらゆる可能性を考慮した対策を講じる必要があります。

楽観的な見通しは対策の遅れや不十分な対応につながり、被害を拡大させる要因となるため、注意が必要です。常に危機意識を持ち、謙虚な姿勢で防災に取り組むことが重要となります。

平常時から「備え」をしておく

災害発生時に迅速かつ適切な対応を行うためには、平常時からの備えが不可欠です。主に、以下のような対応をしておく必要があります。

  • 防災計画の策定
  • 訓練の実施
  • 備蓄品の確保
  • 情報収集体制の構築

上記を中心に、多岐にわたる準備が必要です。これらの備えは、災害発生時の混乱を最小限に抑えて人命を守り、事業を早期に復旧させるために重要な役割を果たします。平常時からの地道な努力が、災害時の被害を大きく左右することを強く認識しておくべきです。

被害拡大防止に努める

災害発生時には、人命救助を最優先としつつ、二次災害の防止や被害拡大の抑制に努めることが必要です。たとえば、火災の発生や土砂災害の発生、危険物の流出など、さまざまな二次災害が想定されます。

これらの二次災害は、さらなる被害拡大や人命損失につながる可能性があるため、迅速かつ適切な対応が求められます。自社だけでなく、関係機関とも連携しながら、迅速な情報共有や応急対策を講じることが重要です。

他の事業者と連携する

災害発生時には、単独での対応には限界があります。ほかの運輸事業者や関係機関と連携し、情報共有や相互支援を行うことが重要です。

たとえば、代替輸送手段の確保や物資の融通、人員の派遣など、さまざまな協力体制が考えられます。平常時から連携体制を構築し、定期的な情報交換や合同訓練を行うことで、災害時の連携をスムーズに行うことが可能です。

適切な情報収集・発信を行う

災害発生時には、正確かつ迅速な情報収集と発信が不可欠です。関係機関からの情報、現場からの情報、利用者からの情報など、さまざまな情報を収集して整理・分析する必要があります。

また、収集した情報を利用者や関係機関に迅速かつ正確に伝えることも重要です。情報伝達の遅延や誤情報は混乱を招き、被害を拡大させる要因となります。情報収集・発信体制の整備は、災害対応の成否を左右する重要な要素です。

訓練・見直しを実施する

災害対応能力を向上させるためには、定期的な訓練と訓練結果を踏まえた計画の見直しが不可欠です。さまざまな災害を想定した訓練を実施し、災害対応の手順や役割分担を確認することが大切になります。

また、訓練結果を分析し、課題や改善点を見つけ出して計画に反映させることも重要なポイントです。訓練と見直しを繰り返すことにより、災害対応能力を継続的に向上させられます。災害の発生状況などは時代の流れとともに変化するため、定期的な見直しを必ず行いましょう。

運輸事業者が抱える防災の課題

運輸防災マネジメントにおいては、さまざまな課題があります。ここでは、運輸事業者が抱えやすい課題を詳しく見ていきましょう。

自然災害によるリスクの多様化

近年、地球温暖化の影響により、自然災害のリスクが多様化しています。従来の地震や台風に加え、豪雨、洪水、土砂災害、高潮など、さまざまな災害が発生する可能性が高まっているため、より注意が必要です。これらの災害は、広範囲にわたる被害をもたらし、運輸インフラに甚大な影響を与えます。

また、自然災害が発生した場合、運輸インフラは広範囲にわたって被害を受ける可能性があるでしょう。とくに、鉄道や道路などの基幹インフラが寸断されると、人命救助や物資輸送に支障をきたし、社会経済活動に大きな影響を与えます。

復旧作業には多大な時間と費用がかかり、長期化する可能性もあります。運輸事業者は、早期の復旧に向けた計画を策定し、関係機関と連携して迅速な対応を行うことが大切です。

老朽化したインフラの維持・管理

高度経済成長期に整備された運輸インフラは、老朽化が進んでいます。老朽化したインフラは、耐震性や耐水性が低下しており、災害時に被害を受けやすい傾向です。

また、維持管理に必要な費用も増大しており、運輸事業者の経営を圧迫する要因となっています。とくに鉄道事業者などの交通インフラを所有する事業者は、老朽化したインフラの更新や補修を計画的に実施し、安全性を確保する必要があります。ただし、多大な費用が発生するため、コストが不足する企業も多いはずです。

限られた予算と人員での対応

運輸事業者は、限られた予算と人員で広範囲にわたる防災対策の実施が必要です。とくに、中小規模の事業者では、十分な予算や人員を確保することが難しい場合が多い傾向があります。運輸事業者は、優先順位をつけ、効率的な防災対策を実施する必要があります。

近年では災害リスクが多様化していることから、さまざまな対策を立てなければなりません。必要な予算も増加傾向にある中、限られた予算や人員で対応するのは難しいでしょう。

人材育成・訓練の課題

運輸事業者の防災担当者のなかには、専門的な知識や経験を持っていない人もいます。また、定期的な訓練を実施する時間や人員も限られているケースがほとんどです。防災に関する知識や経験の不足は、災害時の対応能力の低下につながります。しっかりと対策をするのであれば、人材育成や訓練に力を入れ、災害対応能力を向上させなければなりません。

とくに、経験の浅い従業員や、異動してきたばかりの従業員は、災害時の対応に戸惑う可能性があります。運輸事業者は、全従業員を対象とした防災教育や訓練を実施し、災害時の対応能力を底上げすることが必要です。

運輸防災マネジメントの具体的な対策

次に、運輸防災マネジメントの具体的な対策を見ていきましょう。

災害別の対策を立てる

自然災害の種類によって、必要な対策は異なります。地震や津波、豪雨、台風など、それぞれの災害特性を踏まえ、具体的な対策を立てることが大切です。

たとえば、地震対策では耐震補強や避難経路の確保、豪雨対策では排水設備の整備や浸水対策などが挙げられます。災害の種類ごとにリスク評価を行い、適切な対策を立てましょう。

ハザードマップを活用する

ハザードマップは、各自治体が作成している災害リスクを地図上に示したものです。ハザードマップを活用することにより、自社の事業所や運行ルートにおける災害リスクを把握し、適切な対策を講じることができます。

たとえば、浸水想定区域や土砂災害警戒区域を確認し、避難計画や輸送ルートの見直しを行うなどの対策が挙げられます。ハザードマップは、防災対策の基礎となる情報源の1つです。参考にしながら、しっかりと対策を立てましょう。

耐震・耐水対策を行う

運輸インフラは、地震や水害に弱い傾向です。とくに、老朽化した施設や設備は耐震性や耐水性が低下しており、災害時に被害を受けやすいとされています。耐震補強や防水対策など、インフラの強化と耐災害性の向上を図ることが必要です。

たとえば、橋梁やトンネルの耐震補強、駅や車両基地の防水対策などが考えられます。また、老朽化した設備の更新も重要です。

リアルタイムな情報共有システムの構築

災害発生時には、リアルタイムで情報を共有できるシステムを構築し、被害状況や運行情報などを迅速に伝達する必要があります。迅速な情報の伝達は、利用者に大きな安心を与えるだけでなく、信頼度の向上にもつながります。

災害発生時、利用者は交通機関の運行情報や避難情報などを求めていると考えられます。運輸事業者は、利用者に対して、迅速かつ正確な情報提供を行う必要があります。たとえば、運行情報のリアルタイム配信に加え、多言語での情報提供を行えば、海外からの観光客にも対応可能です。

代替輸送手段の確保

災害により、通常の輸送手段が利用できなくなった場合に備え、代替輸送手段を確保しておく必要があります。たとえば、バスやタクシーによる代替輸送、船舶やヘリコプターの活用などが考えられます。代替輸送手段の確保は、人命救助や物資輸送を円滑に行う上で重要です。

運輸事業が停滞すると、災害の復旧活動に大きな影響を与えます。素早い復旧を進めるためにも、必ず代替輸送手段を確保しておきましょう。

【国土交通省】自然災害対応の取組事例

ここでは、各業種ごとの自然災害対応の取組事例を紹介します。

▲出典:国土交通省 自然災害対応の取組事例一覧

鉄道

鉄道業界では、以下のような取り組みを行っています。

  • 二次元コードを活用して避難経路情報を提供する取組
  • 富士山の大規模降灰を想定した防災訓練
  • 耐震補強と地震観測体制の強化で安全性向上
  • 地震発生(熊本地震)時の事業継続
  • 風水害に備えた橋脚防護・異状検知システムの設置

二次元コードを活用して情報を提供する取り組み、各災害を想定した訓練の実施などを行うことによって、災害に備えています。

自動車(バス)

バス業界では、以下のような取り組みを行っています。

  • 燃料備蓄のための供給ルートの見直し・強化
  • 浸水被害を想定したバス営業所の高台移転
  • 乗務員の迅速な対応とバスの運行継続体制を構築
  • 防災マップ、ハンドブック、ドラレコに連絡機能を追加

浸水被害を想定し、バス営業所の高台移転を行ったり、供給ルートを見直したりと、さまざまな対策が行われていることが分かるはずです。また、災害時でも迅速に対応し、事業を継続するための体制を構築するなどの取り組みも行われています。

自動車(トラック)

トラック業界では、以下のような取り組みが行われています。

  • タブレット型車載端末で運行管理
  • 集配中に発見した災害情報の社内共有
  • 災害時に即座に対応出来る体制構築
  • グループ統一の判断ルールの徹底

タブレット型車載端末で運行管理を行うことにより、リアルタイムでの動態把握や健康起因による事故予防、安否確認などが行えるようになりました。災害情報の社内共有は、迅速な避難につながっています。

海事

海事業界では、以下のような取り組みが行われています。

  • 船舶の緊急離岸、出港・移乗訓練
  • 自然災害時における船舶避難場所の確保
  • 甲板部職員で主機の緊急起動訓練
  • 災害種別毎にマニュアルを作成・訓練

船舶の緊急離岸や自然災害における船舶避難場所の確保など、船に関する内容が中心に行われています。また、災害種別ごとにマニュアルを作成し、訓練することで従業員の災害への意識を高めているようです。

航空

航空業界では、以下のような取り組みが行われています。

  • 県の防災担当者等と連携
  • 報道取材機の運航継続体制の構築
  • 確実かつ実効性のある体制の構築

多くの業界が、災害に備えてさまざまな対策を行っていることが分かります。業界によって立てるべき対策が異なるため、自社の課題を洗い出しつつ、対策を立てましょう。

運輸防災マネジメントで災害に備えよう

運輸業界における防災マネジメントは、自然災害が頻発・激甚化する日本において、人々の命と暮らし、そして経済活動を守るための生命線です。運輸事業者は、社会インフラを担う者としての重い責任を自覚し、国土交通省の指針などを参考に、平時から継続的に防災・BCP対策を強化していく必要があります。

その取り組みは、個々の事業者の努力だけでなく、事業者間、そして自治体や国、さらには利用者自身の協力があってこそ、より強固なものとなるでしょう。

また、災害発生時の迅速な事業復旧のためには、従業員の安否確認が不可欠です。とくに、ドライバーや乗務員など、勤務場所や時間が不規則な従業員が多い運輸業界においては、効率的かつ確実に安否を確認できる仕組みが求められます。

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