リスクの受容基準をわかりやすく解説!リスクアセスメントの流れも

トヨクモ防災タイムズ編集部
リスクアセスメントを実施する際、リスク基準をもとにリスクの大きさや対応する優先順位について検討する必要があります。適切に対策を講じるためにも、リスク基準について理解を深めておきましょう。
本記事では、リスク基準の定義や評価基準、評価方法について解説します。後半では、リスクアセスメントの流れについても紹介しているので、事業継続性や安全性を高めたいと考えている方は参考にしてください。

目次
ISO31000におけるリスク基準とは
ISO31000は、国際標準化機構が発行しているリスクマネジメントの指針です。その中で、リスク基準について以下のように記載されています。
6.3.4 リスク基準の決定組織は,目的に照らして,取ってもよいリスク又は取ってはならないリスクの大きさ及び種類を規定することが望ましい。組織はまた,リスクの重大性を評価し,意思決定プロセスを支援するための基準を決定することが望ましい。リスク基準は,リスクマネジメントの枠組みと整合させ,検討対象になっている 活動に特有の意義及び範囲にリスク基準を合わせることが望ましい。リスク基準は,組織の価値観,目的 及び資源を反映し,リスクマネジメント方針及び声明と一致していることが望ましい。基準は,組織の義務及びステークホルダの見解を考慮に入れて規定することが望ましい |
(引用:米戸靖彦「ISO31000:2018 リスクマネジメントガイドライン」)
リスク基準とは、取ってもよいリスク・取ってはならないリスクの大きさや種類を規定するものです。リスク基準をもとに、組織でリスクをどの程度まで受け入れるかを判断します。
リスクの評価基準は3つ
一般的に、リスクを評価する基準として、重篤度、発生の可能性、危険性または有害性に近づく頻度が用いられます。これらの基準によって、リスクの大きさを客観的に測定し、比較することが可能です。
ここでは、厚生労働省の「リスクアセスメント 実施一覧表の作成 (安全・労働衛生)」をもとに、評価基準について解説します。
負傷や疾病の重篤度
重篤度は、リスクが顕在化した場合に想定される被害や損失の大きさを表す基準です。一般的には、以下のような区分が用いられます。
重篤度 | 点数 | 災害の程度・内容の目安 |
致命傷 | 10 | 死亡・失明・手足の切断などの重篤災害 |
重症 | 6 | 骨折など長期療養が必要な休業災害および障害が残るけが |
軽症 | 3 | 上記以外の休業災害(医師による措置が必要なけが) |
軽微 | 1 | 表面的な傷害や軽い切り傷及び打撲傷(赤チン災害) |
(参考:リスクアセスメント 実施一覧表の作成 (安全・労働衛生)|厚生労働省
発生の可能性
発生の可能性は、そのリスクが実際に発生する確率や頻度を表す基準です。一般的には、以下のような区分が用いられます。
可能性 | 点数 | 内容の目安 |
確実である | 6 | かなり注意しても災害になる |
可能性が高い | 4 | 通常の注意力では災害になる |
可能性がある | 2 | うっかりしていると災害になる |
ほとんどない | 1 | 通常の状態では災害にならない |
(参考:リスクアセスメント 実施一覧表の作成 (安全・労働衛生)|厚生労働省
危険性または有害性に近づく頻度
危険性または有害性に近づく頻度は、作業者が危険源や有害要因にどの程度の頻度で接近するかを表す基準です。頻度が高ければ高いほど、リスクが顕在化する可能性も高くなります。
一般的に用いられる区分は、以下のとおりです。
頻度 | 点数 | 内容の目安 |
頻繁 | 4 | 毎日、頻繁に立ち入ったり接近したりする |
時々 | 2 | 故障、修理・調整等で時々立ち入る(1週間に1回〜1ヶ月に1回) |
ほとんどない | 1 | 立入り・接近することはめったにない(1年に1回程度) |
(参考:リスクアセスメント 実施一覧表の作成 (安全・労働衛生)|厚生労働省
リスク評価の方法
リスクを評価するための方法には、主に以下の3つのアプローチがあります。ここでは、厚生労働省安全衛生部安全課の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」をもとに解説します。
マトリクスを用いる
マトリクスを用いる方法では、「重篤度」と「発生の可能性」をそれぞれ縦軸と横軸に配置した表を使用します。あらかじめマトリクス内の各セルにリスクレベルを割り付けておき、対象となるリスクの重篤度と発生可能性に該当するセルを選んでリスクを評価します。
負傷又は疾病の重篤度 | 致命的 | 重大 | 中程度 | 軽度 |
極めて高い | 5 | 5 | 4 | 3 |
比較的高い | 5 | 4 | 3 | 2 |
可能性あり | 4 | 3 | 2 | 1 |
ほとんどない | 4 | 3 | 1 | 1 |
たとえば、重篤度が「中程度」で、可能性が「可能性あり」の場合には、評価点は2点となります。
評価点が1点の場合には対応の優先順位は低いですが、2〜3点の場合には、速やかにリスク低減措置を講じることが求められます。4〜5点の場合には、直ちにリスク低減措置を講じなければならず、措置を講じるまでには作業を停止しなければなりません。
リスクの数値を加算する
リスクを加算する方法では、重篤度や発生可能性、頻度などの各要素に数値を割り当て、それらを加算します。
たとえば、重篤度が「軽症(3点)」で、発生の可能性が「可能性がある(2点)」危険性または有害性に近づく頻度が「頻繁(4点)」の場合には、合計9点となります。
合計点が10点未満の場合には対応の優先順位は低いですが、10〜29点の場合にはできるだけ早くリスク低減措置を図らなければなりません。30点以上の場合には、直ちにリスク低減措置を講じ、措置を講じるまでは作業を停止する必要があります。
枝分かれ図を用いる
枝分かれ図を用いる方法では、重篤度と発生する可能性をもとに分岐させて、リスクを評価します。
▲出典:危険性又は有害性等の調査等に関する指針|厚生労働省安全衛生部安全課
たとえば、重篤度が「重大」で、発生の可能性が「日常的」、回避することが「可能」な場合には、評価点は4点です。
1〜2点の場合には対応の優先順位は低く、必要に応じてリスク低減措置を講じる程度です。2〜3点の場合には、速やかにリスク低減措置を実施することが求められます。さらに、4〜5点の場合には直ちにリスク低減措置を実施しなければなりません。
リスクアセスメントの流れ
リスクを評価するだけで、リスクアセスメントは終わりではありません。ここでは、リスクアセスメントの基本的な流れを紹介します。
①リスクを評価する
マトリクスや枝分かれ図の使用、リスクの数値の加算によって、リスクの大きさを見積もります。リスクすべてに同時に対応することは困難であるため、優先順位をつけて、緊急性の高いものから対応措置を検討します。
②リスク低減対策を検討・実施する
リスク評価の結果、優先度が高いと判断されたリスクについては、適切なリスク低減対策を検討していく必要があります。対策を検討する際には、効果の高いものから順に実施することが大切です。
まず法令で定められた事項がある場合には、それを必ず実施することが前提となります。その上で、次のような順序で対策を検討します。
- 法令で定められた事項の実施
- 設計や計画の段階における危険性・有害性の除去または低減
- 管理的対策
- 個人用保護具の使用
最初に取り組むべきなのは、設計や計画の段階における危険性・有害性の除去または低減です。危険な作業そのものをなくしたり、作業方法を変えたり、より安全な材料に替えたりする方法がこれにあたります。こうした対策は問題の根本から解決できるため、最も効果的です。
次に考えるべきなのが、工学的対策です。これは機械に安全装置をつけたり、防護設備を設置したりして、人と危険なものを物理的に隔てる方法です。たとえば、機械にカバーをつける、センサーで人が近づいたら自動停止するシステムを導入するなどの対策があります。
手順の3番目である管理的対策は、作業手順書の作成や危険な場所への立入禁止などがこれにあたります。この対策は人の行動に頼る部分が大きいため、上記の対策ほど確実ではないですが、しっかりとした教育と手順で大きな効果を期待できます。
最後の手段は、個人用保護具の使用です。これは、ほかのすべての対策を行っても残るリスクから身を守るためのものです。ヘルメットや安全靴、ゴーグル、手袋などがこれにあたります。
(参考:プレス事業場におけるリスクアセスメントのすすめ方 中小規模事業場への導入を目指して)
③リスクアセスメント状況を見直す
リスク低減対策を実施した後も、リスクアセスメントの取り組みは続きます。
実施した対策が実際に役立っているかを確認するため、効果を評価することが大切です。うまくいった対策はほかの場所や作業にも広げていき、期待した効果が得られなかった対策については、別の方法を考える必要があります。
こうした見直しと改善を繰り返すことにより、職場の安全性が高まります。
自然災害リスクへの備えに安否確認システムの導入がおすすめ
▲出典:安否確認サービス2
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まとめ:リスク基準を活用して、より安全な職場環境へ
リスク基準の設定と適切なリスクアセスメントの実施は、企業の持続的な発展と安全な職場環境の実現に欠かせない取り組みです。
本記事で解説したように、重篤度や発生の可能性、危険性または有害性に近づく頻度という3つの基準をもとに、マトリクスや数値計算などの手法でリスクを客観的に評価し、優先順位を決めましょう。そして評価結果に基づき、本質的な対策から順に効果的なリスク低減措置を実施していきます。
また、とくに自然災害リスクへの対応として安否確認システムの導入も、事業継続の観点から有効な対策です。災害時に緊急対応できる人員を迅速に把握するためにも、自社にとって使いやすい安否確認システムを導入しておきましょう。