【株式会社ガスパル・株式会社マクアケから学ぶ】災害リスクマネジメントの重要性

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遠藤 香大(えんどう こうだい)

災害時に事業を継続するために、企業における災害リスクマネジメントは非常に重要です。しかし、全社でどのように取り組めばよいのか、課題を感じている担当者の方は少なくありません。

そこで今回は、パブリック企業として事業を継続的に拡大するための災害リスクマネジメントについて、株式会社ガスパルと株式会社マクアケのご担当者様にお話をお聞きしました。

両社は以前より防災対策に力を入れており、以下の3つのキーワードに沿って災害リスクマネジメントへの考え方を語っていただきます。

  • 過去の大災害からの教訓
  • 巨大地震が迫るいまからできる備え
  • 企業の危機管理担当者が持つべき視点

それぞれのお話をとおして「どのような防災対策を行っているのか」「BCP対策はどのようにされているのか」を深堀りしていきましょう。

今回、お話いただいたのは、株式会社ガスパル総務部部長で社内インフラの整備とBCP推進体制の事務局を担う春山さんと、株式会社マクアケ開発本部・IT基盤部の山田さん、同じく株式会社マクアケにて環境の整備やBCP推進など防災に関する社内整備のご担当である田中さんの3名です。

各社のプロフィール

株式会社ガスパル

ガスパル春山さん:
ガスパルグループはLPガスの販売事業・設備工事や都市ガス小売事業、再生可能エネルギー事業、コインランドリー事業を国内で展開しています。また、これらの事業を通じて、主に賃貸住宅に暮らすお客さまに、暮らしの安心と安全を提供しています。大東建託が100%出資をする大東建託グループの一員です。

株式会社マクアケ


マクアケ山田さん:
マクアケは「Makuake」を中心とした各種支援サービスの運営、研究開発技術を活かした製品プロデュース支援事業を行っています。「Makuake」は、プロジェクトの実行者が新商品やサービス作りへの挑戦ストーリーを伝え、それに共感した一般ユーザーが新商品やサービスを応援購入するプラットフォームです。

ガスパルが過去の大地震から得た教訓とは

トヨクモ金山:
ガスパル様はガスを取り扱う企業ということで、インフラに関わる会社として防災意識が高いイメージがありますが、実際の社内の防災対策はどのように取り組まれていますか?

ガスパル春山さん:
ガスパルグループは、ガスの供給という日々の生活を支える事業を中核にしていることもあり、お客さまの安全を確保するための保安業務に力を入れています。また「最上級の保安とサービスを提供すれば、利益があとからついてくる」という「先保後利」を経営理念に掲げ、お客様の安全確保や事故の未然防止、緊急時の被害を最小限に抑えることを目的に、安全対策や防災対策には以前より力を入れて取り組んでいます。

トヨクモ金山:
経営理念の「先保後利」は、企業防災の考え方にも通じるものがありますね。

トヨクモ金山:
過去には、東日本大震災や阪神・淡路大震災といった大災害が発生しています。2024年の元旦には能登半島地震が発生し、その被害が記憶に新しい方も多いでしょう。

実際に、能登半島地震をきっかけに企業防災の意識が高まっており、とくに以下の3つについては大切さを実感している会社が多いようです。

  1. 飲料水や非常食などの備蓄
  2. 社内連絡網の整備
  3. 非常時の社内対応体制の整備・ルール化

ガスパル様は、全国でガス販売や設備工事事業を展開されているため、大規模災害が発生してもサービスを止めることは難しいのではないかと思います。過去の大地震、例えば東日本大震災の際には、どのように対応され、その後の復旧を進められたのでしょうか?

東日本大震災で連絡手段の確保の重要性を認識

ガスパル春山さん:
東日本大震災の発生時、ガスパルグループの事業にも大きな影響がありました。

ガスパルグループはガスという危険物を扱っていることから、従業員の安否確認やガス設備の安全確認が急務です。しかし、東日本大震災が発生した2011年当時は安否確認システムを導入しておらず、従業員の安否確認を迅速に行えない状態でした。その結果、宮城県の事業所においては従業員が連絡手段を持たないままバラバラに行動し、最終的には事務所に集合することでようやく安否確認を行えました。

また、福島県の事業所の建物にはひび割れが発生し、事務所が使えなくなりました。また、宮城県
の事業所は津波による床上浸水が発生し、パソコンが水に浸かって使えず、事務所が停電したり、
固定電話もつながらなかったりといった状況でした。数少ない連絡手段として有効だったのは、
各事務所に1台ずつ備えていた停電用の固定電話でした。

トヨクモ金山:
地震だけでなく、津波による被害もあったのですね。その後、災害対応においてどのような課題が浮き彫りになりましたか?

ガスパル春山さん:
大きな課題だったのが、大規模災害時における連絡手段の確保でした。また、備蓄が少ないことも課題でした。

課題からの学び

ガスパル春山さん:
これらの課題を踏まえ、ガスパルグループは以下のような対応を行いました。

  • BCPの策定
  • 安否確認システムの導入
  • 衛星電話の導入

当時の反省を活かし、親会社と連携しながら課題改善に取り組んでいます。

熊本地震では安否確認結果の共有に課題を感じた

トヨクモ金山:
東日本大震災を受けてBCPを策定されたのですね。その後、2016年の熊本地震ではどのような対応をされましたか?

ガスパル春山さん:
熊本地震の発生時には、東日本大震災の経験を踏まえて体制を強化していましたが、それでもなお課題が残っていました。

当時、安否確認システムを導入しておりましたが、現地に情報を届けるまでに多くの時間がかかりました。社内運用上の課題もあり、回答結果を集計できたのは東京本社の総務部だけだったため、情報を必要とする九州の事業所に回答がなかなか届きませんでした。

災害時、事業所や拠点間のスムーズな情報共有がいかに重要か、改めて実感しました。

能登半島地震では迅速に安否確認を完了できた

トヨクモ金山:
能登半島地震をきっかけに、防災対策をさらに強化されたとのことですが、2024年の能登半島地震の対応についてもお聞かせいただければと思います。

ガスパル春山さん:
能登半島地震発生時には、安否確認システムとしてトヨクモ社の「安否確認サービス2」を利用しておりました。

能登半島地震発生直後の16時6分に、全従業員約1,100名に安否確認メールが発信され、災害の発生から1時間後には96%、5時間後には全従業員の安否確認が完了しています。

トヨクモ金山:
1時間で回答率96%とは素晴らしいですね。社内の防災意識の高さがうかがえます。

マクアケ田中さん:
春山さんのお話を聞いていて、社員の皆さんがどのように安否確認システムの使い方を習得し、回答率を向上させているのか気になりました。どのような取り組みをされているのでしょうか?

ガスパル春山さん:
ガスパルグループは年に4回の安否確認訓練を実施しており、訓練と実際の災害発生時、安否確認を繰り返すことで回答率を向上させています。

たとえば、安否確認メールが発信されてからの回答基準時間を設け、回答に遅れがみられる従業員に対しては声をかけるといった対策も取っています。その結果、従業員の意識向上にもつながっているかなと感じています。

トヨクモ金山:
繰り返しの訓練と、回答時間の基準を設けることが、従業員の意識向上につながっているのですね。貴重なお話をありがとうございました。

マクアケの災害対応

トヨクモ金山:
ここまでは、ガスパル様の能登半島地震への対応についてお話を伺いました。マクアケ様では、能登半島地震による被害はどのような状況でしたか?

マクアケ田中さん:
マクアケには北陸にも拠点があったため、拠点の勤務者と帰省しているメンバーに「安否確認サービス2」で安否確認を行いました。その結果、大きな被害がなかったことを確認できました。

また、能登半島地震の翌月にはBCP訓練を実施し、社内の防災意識向上にもつなげました。

ガスパル春山さん:
発災後すぐに訓練をするという対応の早さに驚きました。具体的にどのような訓練をされたのでしょうか?

マクアケ田中さん:
弊社では出社と在宅勤務のハイブリッドワークを行っているため、訓練当日は対策本部と一部の担当者のみ出社して、ほかの方はオンライン上で訓練を実施しています。

訓練では

「安否確認メールを送信し、回答してもらう」

「各担当者に割り当てられたタスク順序を確認する」

を行いました。

また、訓練を実施して終わりにするのではなく、訓練後に振り返りを行うことで、従業員の防災意識向上にもつなげています。

トヨクモ金山:
在宅勤務の社員も含めて訓練を実施し、さらに訓練後の振り返りを行うことで、防災意識の定着につながっているのですね。

巨大地震が迫るいま、「コスト」から「バリュー」の防災へ

トヨクモ金山:
ここまで2社の過去の災害対応について伺ってきましたが、今後発生する可能性の高い南海トラフ地震などへの備えはどうすべきでしょうか?

日本では、今後30年以内に大地震が発生する確率が高いとされており、特に南海トラフ地震への備えが注目されています。企業にとっても、大規模災害への対策は喫緊の課題と言えるでしょう。

マクアケ様では、このような将来の大地震への備えをどのように進めていますか?

マクアケ:ESG/SDGsも意識した防災対策

BCP策定

マクアケ田中様:

弊社では、専門家の力を借りながら、これまで社内で運用していたマニュアルをブラッシュアップし、2022年にBCPを策定しました。基本方針は、以下の3つです。

  • 人命(従業員・顧客)の安全を守る
  • 自社の経営を維持する
  • 顧客からの信頼を守る

BCPの策定に至った背景としては、社会全体で企業防災意識が高まったことに加え、ステークホルダーの皆様に安心を提供することも重要だと考えたためです。

近年は介護事業者におけるBCPの策定が義務化されたほか、地震や洪水、感染症などあらゆるリスクに備えられるようなBCPが求められているように感じます。

また、国連加盟国が掲げている「持続可能な開発目標”SDGs”」がありますが、リスクを洗い出して対策を講じることが企業の対応力を高めることにもつながり、SDGsのゴールにも寄与できるはずです。

ガスパル春山さん:
BCPを策定したものの、それをどのように社内へ周知し、定着させるかが課題となる企業も多いのではないでしょうか。マクアケ様では、どのような工夫をされていますか?

マクアケ田中さん:
BCPは社内のポータルサイトに掲載し、誰でも確認できる体制を整えています。今後は、「安否確認サービス2」にある掲示板機能の活用も検討中です。

トヨクモ金山:
また、御社では防災備蓄品の社員への配布や、社会への還元といった取り組みも行っていると伺いました。具体的な内容について教えていただけますか?

マクアケ田中さん:
賞味期限が近づいた備蓄食品は社員に配布し、日常の中で防災を意識してもらうとともに、企業としてもローリングストックの仕組みを取り入れています。

また、それだけでなく、NPO法人などへ寄付することで食品ロスの削減にも取り組んでいます。

トヨクモ金山:
マクアケ様の取り組みは、防災対策にとどまらず、SDGsやESGの観点から新たな価値を生み出していると感じました。最近では、「BCPを策定したことで融資や取引が円滑に進んだ」という企業も増えており、防災対策が単なる「コスト」ではなく、「企業価値を高めるバリュー」へと変わりつつありますね。貴重なお話をありがとうございました。

ガスパル:顧客のみでなく、地域住民を含めてグループで支援

トヨクモ金山:
防災を「コスト」ではなく「バリュー」に変えていくという視点で、ガスパル様ではどのような取り組みをされていますか?

ガスパル春山さん:

ガスパルは大東建託グループの一員であり、その大東建託グループは「大東建託グループ防災ビジョン2030」を策定しています。賃貸住宅のオーナーさまと入居者の皆さまだけではなく、地域の皆さまも含めてグループ全体で支援していくという目的で策定されました。

ガスパルグループとしても、このビジョンに基づき、以下の5つの活動を行っています。

BCPは東日本大震災のあとに策定したものの、見直しが適宜行われていなかったため、2023年に大幅な見直しを実施しました。

策定したBCPは安否確認サービス2の掲示板機能に掲載し、従業員がいつでも閲覧できるようにしています。

そして従業員の安否確認訓練を年に4回、BCP訓練を毎年実施することで、継続的にBCPをブラッシュアップしています。

トヨクモ金山:
「地域一体型防災イベント」という取り組みも書かれていますが、具体的にどのような内容なのでしょうか?

ガスパル春山さん:
例えば、地域の防災意識向上を目的に、実際に災害時に活用できる設備を体験していただくイベントを開催しています。

ガス発電機やガス炊飯器を使用した発電・炊飯の実演を行い、災害時にどのように活用できるかを体験してもらう機会を提供しています。

企業の危機管理担当者が意識しているポイントは?

トヨクモ金山:
これまでは過去の災害や現在の防災対策についてお話しいただきました。ここからは「企業の危機管理担当者が持つべき視点というテーマでお話を進めていきたいと思います。

ガスパル春山さん:
ガスパルグループでは、防災対策を行ううえで以下の3つを重要視しています。

  1. 災害発生時の社内連絡体制の整備・共有
  2. 連絡手段の複数確保
  3. 災害時の備蓄品・備品の準備

ガスパルグループには「悲観的に準備をし、楽観的に対処せよ」という言葉があります。これは、災害対策においても同様で、過去の教訓を活かしながら入念に準備を行い、発災時には余裕を持った行動を心がけることが重要だと考えています。

また、災害はいつ発生するか分からないからこそ、常に緊張感を持った行動が大切だと考えています。仕事の従事時間を1日8時間、週5勤務と想定すると、業務時間以外の時間帯に災害が発生する可能性は76%となります。この確率を常に意識するようにしています。

株式会社マクアケ:経営層との連携 + 従業員の防災意識向上

マクアケ田中さん:
マクアケでは、事業のフェーズに合わせてBCPを運用していく必要があるため、経営層との意思疎通が不可欠です。防災に関しては社員情報の連携や個人の意識向上が重要なポイントとなるため、以下のような仕組み作りを意識しています。

  • 訓練や防災に関するアナウンスを行う
  • 安否確認の機能・サービスの定着を目指す
  • 研修の機会を提供する

マクアケ山田さん:
システムの担当者として、システム周りの設定や社員情報の連携などについても必要に応じて見直しを行い、防災対策の改善に繋げていきたいと考えています。

災害リスクマネジメントに注力して企業価値を高めよう

トヨクモ金山:
本セッションでは、株式会社ガスパルの春山さまと株式会社マクアケの山田さま、田中さまに、災害リスクマネジメントについてお話ししていただきました。

担当者だけが会社の災害リスクマネジメントについて考えるのではなく、会社全体で取り組むことが重要です。今後は、今回伺ったお話をもとにしながら、会社の防災対策や防災意識の向上に役立てていただければと思います。

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執筆者:遠藤 香大(えんどう こうだい)


トヨクモ株式会社 マーケティング本部に所属。RMCA認定BCPアドバイザー。2024年、トヨクモ株式会社に入社。『kintone連携サービス』のサポート業務を経て、現在はトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営メンバーとして編集・校正業務に携わる。海外での資源開発による災害・健康リスクや、企業のレピュテーションリスクに関する研究経験がある。本メディアでは労働安全衛生法の記事を中心に、BCPに関するさまざまな分野を担当。

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