工場のBCP対策とは?製造業におけるBCP策定のポイントを解説

トヨクモ防災タイムズ編集部

BCP(事業継続計画)対策は、災害や予期せぬ事態が発生した際に、企業が重要業務を中断させずに維持するための計画です。とくに工場や製造業では、生産ラインの停止や供給網の混乱を最小限に抑えるために、BCP対策が欠かせません。
この記事では、防災訓練や安否確認の流れなど、BCP対策の具体的なポイントについて解説します。また、大企業と中小企業におけるBCP対策の違いにも触れ、それぞれに合った対策方法を紹介します。
目次
工場におけるBCP対策とは?
BCP(Business Continuity Plan)とは、「事業継続計画」の略です。企業が自然災害や予期しない事態に直面した際に、重要業務が中断しないように、また中断した場合でも速やかに復旧できるように策定する計画です。
日本は地震や台風、集中豪雨など、他国に比べて自然災害のリスクが高く、さらに2020年以降は新型コロナウイルスによる経済活動への影響も加わり、BCP対策の重要性が増しています。とくに工場や製造業では、地震や河川の氾濫などで製造ラインに損害が発生すると、操業停止が避けられず、企業に多大な損失を与えるリスクがあります。BCPは、企業の存続にとって不可欠な要素です。
工場・製造業におけるBCP対策の必要性
工場・製造業は、大手企業と中小企業が連携して事業を展開するケースが多く見られます。たとえば、大手企業が製品を販売する際、その部品や加工の工程を中小企業に委託するなど、分業体制が確立されているのが一般的です。このような構造の中で一部でも機能が止まってしまうと、全体の供給に支障をきたす恐れがあります。
とくに災害発生時には、中小企業の事業停止が大手企業の製品供給や市場対応にまで波及することもあります。中小企業におけるBCPの策定は、自社対策にとどまらず、業界全体の安定にも非常に重要です。
BCP対策を実施しないことによるリスクがある
BCP対策を実施していないことは、災害発生時に大きなリスクです。たとえば、地震や水害によって機械や設備が故障し、製造ラインが停止すれば、売上が途絶える可能性があります。また、生産再開の見通しが立たない場合、取引先から契約を打ち切られるリスクもあります。
設備の修理に高額な費用がかかるほか、重要な業務データの損失や、取引先への損害賠償といったリスク対策も重要です。こうした被害を防ぐには、事前のBCP対策が欠かせません。
BCPに加え、BCM対策も実施できるとよい
BCM(事業継続マネジメント)は、BCP(事業継続計画)の策定だけでなく、その運用や見直しを含めた全体的な管理の仕組みを指します。BCPが「計画」であるのに対し、BCMはその計画を「実行し、効果的に活用するための枠組み」です。BCPの策定と同時にBCMも導入することで、災害時などの非常時において計画を実効性のあるものにできます。
これにより、事業の継続性を高めることが可能になります。BCMは事業継続の方針や運用方法を明確にするための、重要な対策です。
工場・製造業におけるBCP対策のポイント
工場や製造業では、災害時の被害が生産活動に直結するため、BCP対策が不可欠です。具体的には、下記のようなものが求められます。
- 防災訓練の実施
- 従業員の安否確認体制を整える
- 予備の設備・工場の確保
- 重要データをバックアップする
- 取引先を分散する
ここでは、非常時にも業務を継続・再開するための対策ポイントを解説します。
防災訓練を実施する
定期的な防災訓練の実施により、従業員は緊急時にも落ち着いて避難行動を取れるようになります。また、建物の耐震化や防災設備の導入も重要で、たとえば地震時に自動でガスを遮断する装置の設置などが有効です。
こうした平常時の備えが、災害時の人的被害を減らし、速やかな復旧につながります。日常的な対策こそが、BCP対策の基本といえるでしょう。実施すべき防災訓練の種類や、手順を知りたい方は下記の記事もあわせてご覧ください。
従業員の安否確認体制を整える
事業を迅速に再開するためには、まず従業員の安否確認体制を整えることが重要です。メール送信型のシステムや安否確認アプリ、GPSによる位置確認ツールなど、企業で購入しやすいものを選択しましょう。
災害時は通信障害が起こる可能性もあるため、複数の連絡方法を用意しておくと安心です。従業員の無事が確認できれば、復旧体制の構築もスムーズに進められ、事業継続への第一歩となります。安否確認を実施する際の注意点を知りたい方は、下記の記事もあわせてご参照ください。
予備の設備・工場を確保する
自然災害によるリスクに備え、予備の設備や工場をあらかじめ確保しておくことが大切です。被害は建物だけでなく、内部の製造設備にも及ぶ可能性があるため、代替の製造体制を整えることで事業中断を防げます。
また、他企業と協定を結び、生産拠点の代替となる場所を確保しておくのも有効です。工場を一箇所に集中させず、拠点を分散させることが、非常時の事業継続において大きな支えとなります。
重要データのバックアップをとる
災害発生時に備えて、重要なデータのバックアップをとっておきましょう。情報の紛失を防ぐため、耐火性のある金庫に保存する方法や、クラウドを活用したデータ管理などが効果的です。
万一機器が破損しても、業務に必要な情報をすぐに復旧できるように準備しておくことで、被害を最小限に抑えられます。事業継続の観点からも、データ保護の対策は必須です。
取引先を分散する
事業の安定性を高めるためには、生産拠点だけでなく取引先の分散も不可欠です。重要な原材料については、仕入先や保管場所を複数確保しておくことで、特定の取引先が被災しても生産を継続できます。また、納入先が被災した場合でも他の顧客がいれば供給は続けられ、売上減少のリスクも抑えられます。
取引先や顧客を複数もつことで、事業の早期再開につなげやすいでしょう。
大手企業と中小企業のBCP対策の違いは?
大手企業と中小企業では、BCPの規模や対策内容に違いがあります。大手企業はリソースや体制が整っている一方で、中小企業は限られた資源で効率的に対策する必要があります。ここでは両者の違いと、それぞれの対策のポイントについて見ていきましょう。
大手企業の場合
大手企業は、部品の調達先を分散することが重要です。仕入先が災害に見舞われた場合、原材料供給に支障が出るおそれがあります。
リスクを減らすために、複数の取引先に分散して発注する対策が有効です。さらに、サプライヤーを国内外に分けて調達することで、製造ラインの停止や製造中断を防げます。
中小企業の場合
中小企業は、大手企業に比べると、単一拠点の被災が経営に与える影響が大きくなりがちです。そのため、拠点ごとの災害対策を徹底することが求められます。
万が一、主要な生産拠点が大きな打撃を受けても、データのバックアップを分散して確保することで、事業継続の可能性を高めます。このような対策で、予期しない事態でも柔軟に対応できる体制を整えましょう。
工場・製造業のBCP対策の手順
工場や製造業におけるBCPは、自然災害や事故などの非常時の備えとして重要です。ここでは、BCPを策定するための手順をご紹介します。
- 目的を明確にする
- 優先順位の高い業務を決める
- 災害時のリスクを調査
- 対策の優先度を決める
- BCP対策に落とし込む
それぞれの項目のポイントを押さえて、効果的なBCP策定につなげましょう。
1.目的を明確にする
BCP対策の際、まずは自社にとっての「事業継続」を明確に定義することが重要です。企業ごとに、事業継続の目的は異なります。
目的を設定した後、どの事業や業務を継続させるべきか、どのような計画を立てるべきかを具体的に判断する材料を作成してください。このプロセスを通じて、事業継続に必要な対策を導き出すことが可能です。
2.優先順位の高い業務を決める
BCP対策では、災害時に自社の業務の中でも、とくに優先すべき業務を事前に洗い出しておくことが大切です。限られたリソースで稼働を再開するために、どの業務を最優先で再開させるべきかを明確にし、優先順位をつけます。
優先順位を決める理由は、災害後は、十分な体制で事業再開が難しいこともあるためです。重要業務を優先し、復旧後は通常の稼働率に戻すことを目指して対策を進めましょう。これにより、事業継続の可能性を高められます。
3.災害時のリスクを調査する
工場でのBCP対策では、災害時に発生しうるリスクを洗い出すことが重要です。地震や洪水、津波、土砂災害など、災害ごとにどのような影響が考えられるかを調査します。
製造業では、取り扱う製品や工場の立地条件によりリスクが異なるため、拠点ごとにリスクを適切に把握することが欠かせません。調査した内容をもとに、リスク対策を実施しましょう。
4.対策の優先度を決める
リスク調査を通じて見えた危険度にもとづき、優先的に対策すべき項目を整理します。最優先すべきは、人命に関わるリスクへの対策です。次に、金銭的損害が大きいリスク、事業継続に不可欠な重要業務に対するリスクと続きます。
この順序で取り組むことで、事業継続の確保と損害の最小化を図れます。
5.BCP対策に落とし込む
上記の手順を踏んだ後、実際の現場で取り組むべきBCP対策を具体化します。防災対策だけではカバーしきれない部分については、事業継続の観点から広い視野で対応策を検討します。
また、対策の実現可能性を高めるために、訓練やシミュレーションを通じて仮説検証することも大切です。必要に応じてBCPを改善・更新していくことで、柔軟に対応できる体制を構築できます。BCPの見直しポイントについて理解を深めたい方は、下記の記事もあわせてご確認ください。
工場のBCP対策でよくある質問
工場のBCP対策を進める中で、よくある疑問や不安が出てくるかもしれません。ここでは、いくつかの疑問点に回答します。災害発生時にどのように対応すべきかを、より具体的にイメージできるようになるでしょう。
BCPが普及しない理由は何ですか?
BCPが普及しない主な理由として、「BCPの重要性や必要性を感じない」ことが挙げられます。法的な要請がないため、企業側が積極的に取り組まないケースも多いでしょう。
さらに、BCP策定に必要なノウハウやスキルが不足している、または人手が足りないことも要因の一つです。自治体や団体からの十分な周知がされていないことも、BCP普及の妨げになっています。これまで経験したことのない災害への備えは、ハードルが高いという側面もあります。
BCPの義務化はいつからですか?
製造業や工場におけるBCPの策定は、現時点では義務化されていません。ただし、2021年の介護報酬改定において、介護サービス事業者にはBCP策定が努力義務とされました。そして、2024年4月からは介護サービス事業者に対して、BCP策定が義務化しました。
BCPが義務化された背景には、頻発する自然災害や感染症などの緊急事態に対し、利用者の安全確保やサービスの継続性を維持する必要があるためです。
BCPを作成する部署はどこですか?
BCPの策定は、企業の危機管理室やリスクマネジメント部門、内部統制室など、危機管理を担当する部署で実施するのが一般的です。ほかにも総務や広報、経営企画など、企業の状況に応じて、BCP作成を担当する部署は異なります。
とくに決まったルールがあるわけではないため、企業の規模や必要に応じて柔軟に対応することが大切です。もし社内にBCPを作成できる人材が不足している場合は、専門的な知見をもつ外部の専門家に依頼するのも有効な方法でしょう。
BCPの策定にはトヨクモの『BCP策定支援サービス(ライト版)』がおすすめ
『BCP策定支援サービス(ライト版)』は、工場や製造業の企業向けに、自然災害や緊急時に備えたBCP策定をサポートするサービスです。このサービスでは、各省庁のガイドラインや日本固有の事業環境を踏まえて、企業に最適なBCPを作成します。
BCPの策定からその後の態勢維持までをしっかりとサポートし、教育や訓練、演習、監査も実施可能です。BCP策定後も、企業にとって有益な効果を生み出すために、全体的なサポートを提供します。
簡易的なBCPマニュアルを作成できるため、必要最低限のBCPを迅速かつ低コストで導入したい企業におすすめです。1ヶ月15万円というリーズナブルな価格で、BCPの新規策定や見直しができます。
工場・製造業でもBCP対策は欠かせない
BCP(事業継続計画)とは、災害や非常事態が発生した際に事業を継続するための計画を立てることです。
工場や製造業においては、防災訓練の実施や従業員の安否確認体制の整備、予備の設備や工場の確保といった対策が重要です。さらにリスクを調査し、発生する可能性のあるリスクに対して優先順位をつけつつ、適切な対策につなげましょう。