自治体BCPとは?具体的な策定手順や注意点を紹介

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遠藤 香大(えんどう こうだい)

近年、日本各地で地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発しています。災害時に行政機能が停止すると住民の避難や救助、インフラ復旧が遅れ、被害が拡大するリスクが高まります。

このような状況に対応するため、自治体が事前に策定すべきなのがBCP(事業継続計画)です。BCPを整備することにより、災害発生時でも行政サービスを継続し、住民の生命と財産を守ることが可能です。

この記事では、自治体がBCPを策定する際の具体的な手順と注意点について解説します。さらに、自治体のBCP策定に役立つサービスも紹介します。災害時でも行政機能を維持し、住民の安全を守るための実効性ある計画を練っていきましょう。

自治体におけるBCPとは

BCP(Business Continuity Plan)は、危機発生時に重要な業務を継続し、被害を最小限に抑えながら迅速な復旧を図るための計画です。通常、企業が災害やシステム障害に備えて策定するものとして知られていますが、自治体においてもBCPの策定は非常に重要です。自治体のBCPは、住民の安全確保と行政機能の維持を目的とし、災害時の対応指針を定めます。

自治体がBCPを策定する主な目的は以下のとおりです。

  • 住民の生命と財産を守る
  • 行政サービスを継続する
  • 復旧を迅速に行う

企業のBCPは、事業の損失を防ぎ、収益を維持することが主な目的ですが、自治体BCPは公共の安全と地域社会の機能維持に重点が置かれています。そのため、以下のような特徴があります。

  • 住民への対応が最優先である(避難誘導、救助活動、情報発信など)
  • 複数の機関と連携する必要がある(警察、消防、医療機関、電力会社など)
  • 長期的な復旧計画が組み込まれる(インフラ再建、生活再建支援など)

自治体BCPの策定には、単なる業務継続計画にとどまらず、地域全体の安全と復旧を支える総合的な視点が求められるでしょう。

自治体BCPの現状

日本は地震や台風、豪雨、津波などの自然災害が頻発する国であり、過去の災害の教訓を踏まえた防災対策の強化が求められています。自治体は、地域社会の安全を確保する責務を持ち、災害時には迅速な避難誘導や救助活動を行う必要があるからです。とくに以下の課題が浮き彫りとなっています。

  • 災害時に行政機能が停止すると、被害が拡大する可能性がある
  • 避難所の運営や物資供給が滞ると、住民の安全が確保できない
  • 情報伝達が遅れると、適切な避難指示が出せず混乱が発生する

自治体BCPの策定は、これらの問題を未然に防ぎ、災害時にも適切な対応を行うための基盤です。

なお、自治体BCPの策定状況は令和5年度で100%となりました。ただし、業務継続に必須とされている以下の6項目のすべてを満たしていない自治体が存在しているため、アップデートは必要でしょう。

  1. 首長不在時の明確な代行順位及び職員の参集体制
  2. 本庁舎が使用できなくなった場合の代替庁舎の特定
  3. 電気、水、食料等の確保
  4. 災害時にもつながりやすい多様な通信手段の確保
  5. 重要な行政データのバックアップ
  6. 非常時優先業務の整理

(参考:地方公共団体における業務継続計画・受援計画策定状況の調査結果

自治体BCPの具体的な策定手順

自治体が実効性のあるBCPを策定するためには、単なる計画書の作成ではなく、災害時に確実に機能する体制を整えることが重要です。以下の手順で策定を進めることにより、迅速な対応と被害の軽減が可能になります。

  1. リスクアセスメントを実施する
  2. 行政機能の優先順位を決める
  3. 定期的な訓練を改善を行う

それぞれについて解説します。

1.リスクアセスメントを実施する

まず、自治体ごとに異なる災害リスクを分析し、それぞれに適した対応策を設計する必要があります。たとえば、沿岸部では津波のリスクが高く、内陸部では地震や洪水の影響を受けやすい傾向にあります。自治体は以下の要素を考慮してリスクを評価しましょう。

  • 地震の発生確率と建物の耐震性
  • 河川の氾濫リスクと排水機能の確認
  • 津波の浸水シミュレーション
  • 土砂災害エリアの指定

こうしたリスクの洗い出しにより、災害発生時に影響を受ける可能性が高い地域や住民を特定し、事前の対策を計画に組み込みます。なお、リスクを評価する際はハザードマップなどを参考にするのもおすすめです。

また、災害時に行政機能を維持するためには、電力や通信、交通インフラの確保が不可欠です。以下の視点でインフラの脆弱性を評価しましょう。

  • 庁舎の耐震構造は十分か
  • 災害時の通信手段(衛星通信・防災無線)は確保されているか
  • 避難所の設備や備蓄品は十分にあるか

インフラの弱点を明らかにし、それを補う対策をBCPに組み込むことで、行政機能の継続性を確保します。

2.行政機能の優先順位を決める

災害発生時にすべての業務を同時に遂行することは困難なため、自治体BCPでは業務の優先順位を設定し、確実に機能する体制を作ることが求められます。

まず、災害時にもっとも重要な業務を決定し、行政機能の維持を図りましょう。最優先業務を決めることにより、限られた人員と資源を効率的に活用し、迅速な対応を可能にします。また、災害時に自治体職員がスムーズに動けるよう、明確な役割分担と指揮系統を策定しましょう。具体的には、以下のような内容を決めておきます。

  • 災害対策本部の責任者と指揮系統の確立
  • 避難誘導担当者の指定
  • 情報発信担当の配置
  • 医療・救助チームの編成

つまり、業務継続の鍵は、適切な人員配置と指示系統の明確化にあるといえるでしょう。

3.定期的な訓練と改善を行う

策定したBCPの実効性を検証するため、定期的な防災訓練を実施し、計画の問題点を洗い出しましょう。たとえば、自治体職員向けの緊急対応訓練や住民との合同避難訓練、通信機器の稼働テストなどを行うと、実際の災害時に適用可能な体制を整えられます。

また、環境変化や新しいリスクに対応するため、BCPは定期的に見直しを行います。以下の観点で改善を進めるのも1つです。

  • 最新の災害データを反映
  • 新技術(AI、ドローンなど)の活用を検討
  • 過去の災害対応の問題点を改善

定期的に自治体BCPの見直しを行っていけば、現状に最適なBCPを維持できます。

自治体BCP策定に必要な要素

自治体がBCPを策定する際には、災害発生時でも行政機能が途絶えないよう、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。具体的には、以下の6項目です。

  1. 首長不在時の明確な代行順位及び職員の参集体制
  2. 本庁舎が使用できなくなった場合の代替庁舎の特定
  3. 電気、水、食料等の確保
  4. 災害時にもつながりやすい多様な通信手段の確保 
  5. 重要な行政データのバックアップ
  6. 非常時優先業務の整理

それぞれについて解説します。

首長不在時の明確な代行順位及び職員の参集体制

緊急時に首長が不在の場合の職務代行順位や職員の参集体制を定めましょう。緊急時は平常時と状況が異なることから、重要な意思決定に支障を生じさせないことが何よりも不可欠です。そのため、どのような事態が発生しても、迅速に的確な判断を下せる体制を構築しておかなければいけません。

また、緊急時における優先業務を遂行する際は、業務にあたる職員を集める必要があります。災害時をはじめとする緊急時に職員が出勤する場合には、それぞれの安全を守りながら参集してもらえるよう準備しておきましょう。

本庁舎が使用できなくなった場合の代替庁舎の特定

災害時に自治体庁舎が損壊した場合、行政機能の停止は避けられません。そのため、事前に代替拠点を確保しておくことがBCPの重要な要素です。代替拠点を適切に設定することにより、災害発生後も円滑に業務を継続できるでしょう。

なお、代替拠点は以下の選定基準を参考にしながら選んでください。

  • 耐震性・防災性能が高い建物である(学校、体育館、地域センターなど)
  • 職員や関係機関が迅速に移動できる立地である
  • 電力・通信環境が確保されている
  • 十分なスペースがあり、災害対策本部として機能できる

自治体は、平常時からこのような拠点を確保し、災害時の移転計画を整備しておくことで、行政機能の継続が可能となります。なお、BCPにおける代替拠点については、以下の記事で詳しく解説しているのであわせて参考にしてください。

内部リンク「BCP 代替拠点」

電気、水、食料等の確保

災害時には、職員や救助隊が業務を継続するための物資が不可欠です。とくに、電力・通信設備・飲食物・衛生用品・業務用機器を十分に確保しておくことが重要です。具体的には、以下のリストを参考にしましょう。

  • 電力供給手段(非常用発電機、蓄電池、ソーラーパネルなど)
  • 通信機器(衛星電話、防災無線、ポータブルWi-Fiなど)
  • 飲食物(最低3日分の食料、水など)
  • 医薬品・衛生用品(救急キット、マスク、消毒液など)
  • 業務継続用機器(ノートPC、タブレット、筆記用具など)

こうした資源を十分に備蓄することによって、災害時でも自治体職員が適切に業務を遂行できる環境を整えられます。孤立により外部からの水や食料などの調達が不可能となる場合も想定し、その上で必要な資源を確保しましょう。

なお、防災時に備えておきたいものについては、以下の記事で解説しているのであわせて参考にしてください。

【防災士が選ぶ】本当に必要な企業向け防災グッズ8選|備える際の注意点も解説

災害時にもつながりやすい多様な通信手段の確保

災害時は通信回線が混雑し、携帯電話やインターネットが使用できない状況が発生しやすいです。こうしたケースに備え、自治体は複数の通信手段を確保し、災害対応チームや住民との情報共有を円滑に行う必要があります。具体的には、以下のような通信手段を導入しておきましょう。

  • 衛星通信
  • 自治体専用の防災無線
  • メッシュネットワークの活用
  • 緊急時専用アプリの導入
  • アナログ通信手段

上記の通信手段を複数組み合わせることによって、災害発生時にも確実に情報を伝達できる環境を構築できます。とくに自治体は災害対応を行う上で、情報収集・発信や関係各所との連携が不可欠です。迅速な行動を起こすためにも、通信手段の確保は必須といえるでしょう。

重要な行政データのバックアップ

行政業務では、住民データや防災関連情報を安全に管理することが不可欠です。災害時にシステム障害が発生すると、対応が遅れや情報の混乱を招く恐れがあるからです。そのため、データとシステムのバックアップ体制を確保することが重要になります。具体的には、以下のポイントを考慮しましょう。

  • クラウドシステムの活用(自治体データの遠隔保存)
  • 災害時に即座に復旧できるサーバーの確保
  • 定期的なバックアップと復旧テストの実施
  • 紙媒体での情報保管(もっとも重要なデータのみ)

デジタルとアナログの両面でバックアップ体制を整えることによって、予期せぬシステム障害が発生しても行政業務を継続できます。

非常時優先業務の整理

緊急時に優先して実施すべき業務を整理しましょう。緊急時は平常時とは異なる状況下であることから、何が起こるか想定できません。しかし、行政業務が止まってしまうと地域住民をはじめとするさまざまな方々の混乱を招きます。そのため、どのような状況であっても行政業務が滞らないように、優先順位の高い業務を継続できる仕組みを構築することが重要です。

たとえば、各部門で実施すべき災害対応業務を「発生直後」「発生から1週間以内」「発生から1ヵ月以内」などと時系列にして整理しておくのもおすすめです。時間の経過によってやるべき業務が明確になると、次の行動を起こしやすくなるでしょう。あわせて必要な人員数を把握しておけば、よりスムーズに業務を継続できます。

事例から学ぶ!自治体BCPの強化方法

ここからは、過去の災害から学んだことなどを活かして、BCPを改善させた事例を紹介します。それぞれの事例を参考に、BCPの見直し・強化を行なっていきましょう。

1.鳥取県

鳥取県では、市町村のBCP策定を推進するなかで、県内9市町村、東・中・西部広域、県自治振興課・総合事務所(県民局)のBCP作成を担当する課長級職員で構成される市町村BCPワーキンググループを設置しています。

また、地区部会として東・中・西部地区部会を置き、策定作業を実施しました。「究極のBCPを職員で作り上げる」との想いのもと、自治体機能喪失までを見込んだ実効性のあるBCP策定を目指しています。

(参考:事例集 (対策準備編) 令和5年5月

2.千葉県

千葉県いすみ市では、日本赤十字の方から話を伺い、女性職員の声を参考にしながら備蓄品を整備しています。たとえば、液体ミルクの活用や生理用品の配布時における工夫など、女性目線を活かした災害準備を進めています。

また、プライバシーに配慮した家族単位のワンタッチ式パーテーションを導入したり、避難所運営に必ず女性を配置する時間を設けてたりといった工夫も施しているのが特徴です。女性の参画によって被災者対応の質が向上し、災害時におけるBCP強化につながっていると言えるでしょう。

(参考:事例集 (対策準備編) 令和5年5月

内部リンク「インクルーシブ防災とは?取組事例や企業でできることをわかりやすく解説」

3.大阪府

大阪府堺市では、災害を大規模・中規模・小規模の3段階で想定し、各規模における非常時優先業務を選定しています。

平常業務は、A(そのままの体制で継続)・B(体制を縮小して継続)・C(休止)の3ランクに分類しています。各業務を実施する上で最小人数を割り当てることを基本としており、業務を遂行するために必須の人数を把握しているのもポイントです。

また、各局の総務課を対象にヒアリングを実施し、非常時優先業務の整理を行っています。「災害対応タイムライン・シナリオ」として各局各区ごとに同一の様式に取りまとめており、各局各区の総務課を中心とした災害対応体制の構築を実施しています。その結果、各職員がどのタイミングで何をすべきかが明確になりました。

さらに、災害対応タイムライン・シナリオは、危機管理室でデータを一元管理しているため、災害時の各フェーズにおける進行状況を把握しやすくなっています。災害対応タイムライン・シナリオを定期的に見直すことにより、組織内への対応方法の浸透に役立てています。

(参考:事例集 (対策準備編) 令和5年5月

災害時に役立つ!トヨクモの『安否確認サービス2』がおすすめ

災害時の自治体の通信手段をより強固にするためには、トヨクモが提供する『安否確認サービス2』の活用がおすすめです。安否確認サービス2は、気象庁の情報と連動して自動で安否確認通知を送信できるシステムで、回答結果も自動で集計できるため、安否確認にかかる手間を大幅に削減できます。毎年9月1日にトヨクモは全国一斉訓練を実施しており、訓練を通じて安否確認サービス2の安定稼働を証明しています。

また、安否確認サービス2には情報共有をスムーズに行える「掲示板機能」と特定の人とやり取りできる「メッセージ機能」が備わっているため、自治体で導入すると、緊急時の被災者支援に向けて迅速な行動が可能になるでしょう。

トヨクモ 安否確認サービス2

まとめ:自治体BCP策定時の重要な注意点を押さえよう

自治体BCPを策定する際は、災害発生時でも確実に機能する体制を整えることが重要です。災害発生時に自治体が迅速かつ的確な対応を行うことによって、住民の安全を守ることができます。どのような災害が発生しても業務を継続できる仕組みを構築して、より安心して暮らせる街づくりを実現しましょう。

なお、自治体の防災力を向上させたいときは、トヨクモの『安否確認サービス2』を利用するのがおすすめです。初期費用不要で30日間のトライアル期間を設けているため、導入へのハードルも低いのも魅力です。地域の防災力を高めたい方は、ぜひ無料体験からお試しください。

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