BCPマニュアルの作り方|テンプレートで作成する手順と記載項目を解説

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竹上 将人(たけがみ まさと)

記事「BCPマニュアルの作り方【BCPコンサルタント監修のテンプレート付き】」のアイキャッチ画像です。

BCPマニュアルは、災害や感染症、システム障害などの緊急時に、従業員の安全を確保しながら重要業務を継続・復旧するための実行手順書です。BCPを策定していても、発動基準や役割分担、安否確認方法、代替手段が曖昧なままでは、実際の初動対応で判断が遅れる可能性があります。

BCPマニュアルでは「誰が」「何を」「どの順番で」対応するのかを具体的に整理しておくことが重要です。基本方針や重要業務だけでなく、想定リスク、復旧目標、緊急連絡体制、訓練・見直し方法まで、自社の業務に合わせて落とし込む必要があります。

この記事では、BCPマニュアルに記載すべき項目や作成手順、テンプレートを活用する際の注意点を解説します。BCPコンサルタント監修のテンプレートも紹介しているため、自社のBCPマニュアルを整備・見直しする際の参考にしてください。

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目次

BCPマニュアルとは

BCPは、緊急事態による事業への影響を抑え、重要業務の継続や早期復旧を目指す計画です。

ただし、計画を策定しているだけでは、現場が迷わず動けるとは限りません。発災直後に必要な安否確認、被害状況の把握、BCP発動判断、社内外への連絡、代替手段への切り替えを、実行手順として整理しておく必要があります。

※BCPそのものの策定手順を詳しく知りたい場合は、【図解】BCP策定6つの手順|注意点をステップごとに解説をご覧ください。

BCPマニュアルとBCP計画書・防災マニュアルの違い

BCPマニュアルと混同されやすい文書に、BCP計画書や防災マニュアルがあります。違いは、目的と扱う範囲です。

種類主な目的主な内容
防災マニュアル人命の安全確保・被害軽減避難方法、備蓄、避難場所、災害時の行動
BCP計画書事業継続の方針整理重要業務、復旧目標、対応体制、事業継続方針
BCPマニュアル緊急時の実行手順整理安否確認、発動基準、役割分担、連絡手順、代替手段

防災マニュアルが「人を守るための手順」だとすれば、BCPマニュアルは「人を守ったうえで、事業を止めないための手順」です。

BCPマニュアルを作成する目的

BCPマニュアルを作成する目的は、緊急時の判断と対応を担当者任せにしないことです。

災害直後は、責任者が不在になる、担当者と連絡が取れない、拠点やシステムが使えないといった事態が起こり得ます。対応手順が決まっていなければ、次のような問題が発生します。

  • 誰がBCPを発動するのか分からない
  • 従業員の安否確認に時間がかかる
  • 重要業務の優先順位を判断できない
  • 顧客や取引先への連絡が遅れる
  • 復旧対応が担当者の経験や記憶に依存する

BCPマニュアルを整備しておけば、緊急時の判断基準や対応手順を社内で共有できます。担当者が変わっても、一定の水準で初動対応や復旧対応を進められます。

ただし、作成しただけのマニュアルは機能しません。発動基準、役割分担、安否確認方法、連絡手段、代替手段、復旧目標まで具体化し、訓練と見直しを前提に運用します。

BCPマニュアルに記載すべき基本項目

BCPマニュアルには、緊急時に必要な判断基準と行動手順を記載します。項目を埋めるだけでは、発災直後の行動にはつながりません。「何を優先するか」「誰が判断するか」「どの手順で対応するか」を、担当者がその場で確認できる粒度まで具体化します。

主な記載項目は以下です。 

項目記載する内容
基本方針従業員の安全確保、重要業務の継続、顧客・取引先への対応方針
想定リスク地震、台風、水害、感染症、システム障害、停電など
重要業務緊急時にも優先して継続・復旧すべき業務
被害想定人員、設備、拠点、情報システム、取引先への影響
発動基準BCPを発動する条件、発動判断を行う責任者
緊急時の体制と役割分担責任者、代理責任者、各部門の役割、意思決定ルート
連絡手段・安否確認方法従業員への連絡方法、安否確認、未回答者対応、社内外への情報共有
代替拠点・代替要員・代替手段通常業務ができない場合の代替策
復旧目標重要業務をいつまでに復旧させるかの目標
初動対応フロー発災直後から復旧判断までの行動手順
訓練・見直し方法定期訓練、更新頻度、改善方法

曖昧になりやすいのは、発動基準、役割分担、安否確認方法、代替手段です。「関係者へ連絡する」「必要に応じて代替手段を検討する」といった書き方では、緊急時に担当者が判断できません。

誰が発動を判断するのか、誰にどの手段で連絡するのか、未回答者をどう確認するのか、通常業務ができない場合に何へ切り替えるのかまで具体化します。

BCPテンプレートを使う前に整理すべきこと

BCPテンプレートは、必要項目を整理するための補助ツールです。ただし、重要業務や発動基準が曖昧なまま記入すると、項目は埋まっていても、緊急時に使えないマニュアルになります。

テンプレートに書き始める前に、自社の重要業務、想定リスク、発動基準、責任者・連絡体制を整理します。

重要業務を絞り込む

最初に、緊急時にも優先して継続・復旧すべき業務を絞り込みます。すべての業務を対象にすると、限られた人員や設備をどこに集中すべきか判断できません。

重要業務とは、停止すると顧客、取引先、売上、社会的責任、従業員の安全に大きな影響を与える業務です。受発注、顧客対応、出荷、システム運用、決済処理、医療・介護サービスなどが該当します。

確認する観点は、停止した場合の影響、復旧の緊急度、必要な人員・設備・システム、外部依存の有無です。テンプレートに業務名を記入する前に、「何を守るためのBCPなのか」を決めます。

想定する災害・リスクを決める

次に、自社の事業継続に影響する災害やリスクを整理します。地震、台風、水害、感染症、火災、停電、通信障害、システム障害、サイバー攻撃、取引先の被災などが対象になります。

すべてのリスクを同じ粒度で扱う必要はありません。拠点の立地、業種、設備、従業員の働き方、取引先、システム環境を踏まえ、影響の大きいリスクから優先します。

想定リスク業務への影響例
地震拠点の使用停止、従業員の出社困難、設備破損
台風・水害交通停止、倉庫浸水、配送遅延
感染症出社制限、人員不足、対面業務の停止
停電・通信障害システム利用不可、社内外との連絡遅延
サイバー攻撃データ閲覧不可、業務システム停止、情報漏えい
取引先の被災仕入停止、納期遅延、代替調達の発生

リスクを並べるだけでなく、そのリスクが重要業務にどう影響するかまで整理します。

BCPの発動基準を決める

BCPをいつ発動するかも、テンプレート記入前に決めます。「大きな災害が起きた場合」「事業継続が難しい場合」といった表現では、緊急時に判断が分かれます。

発動基準は、震度、拠点被害、システム停止時間、出社可能人数など、判断できる条件に落とし込みます。

発動基準の例判断の観点
拠点所在地で震度5強以上の地震が発生した従業員の安否確認と拠点被害の確認が必要
本社・主要拠点が使用できない代替拠点や在宅勤務への切り替えが必要
基幹システムが一定時間以上停止した重要業務の継続可否を判断する
従業員の一定割合が出社できない代替要員や業務縮小を検討する
主要取引先・委託先が業務停止した代替調達や顧客対応を行う

あわせて、BCP発動を判断する責任者と、責任者不在時の代理者も決めておきます。ここが曖昧だと、初動対応の開始が遅れます。

社内の責任者・連絡体制を確認する

最後に、緊急時の責任者と連絡体制を確認します。

災害直後には、安否確認、被害状況の把握、経営層への報告、顧客・取引先への連絡が同時に発生します。平常時の組織図をそのまま使うだけでは、責任者不在時や担当者が出社できない場合に対応が止まります。

最低限、BCP責任者、代理責任者、安否確認担当、情報収集担当、社内連絡担当、社外連絡担当を決めます。役割名だけでなく、担当者、代理者、連絡手段、報告先まで確認します。

連絡体制は、連絡先一覧を作るだけでは不十分です。誰が、どの手段で、どの順番で連絡し、回答状況を誰が集約するのかまで決めておきます。

BCPマニュアルの作り方【7ステップ】

BCPマニュアルは、重要業務、想定リスク、発動基準、責任者、連絡手段、代替手段を整理し、緊急時に担当者が動ける手順へ落とし込みます。

ステップ1:基本方針と対象業務を決める

まず、緊急時に企業として何を優先するかを決めます。従業員の安全確保、重要業務の継続、顧客・取引先への影響抑制など、自社として守るべき方針を整理します。

あわせて、BCPマニュアルの対象にする重要業務・重要商品・重要サービスを絞ります。すべての業務を対象にすると、緊急時に優先順位を判断しにくくなります。受発注、顧客対応、出荷、システム運用、決済処理、主力商品の提供など、停止した場合の影響が大きい業務から選びます。

ステップ2:想定リスクと被害を洗い出す

次に、自社の事業継続に影響するリスクを洗い出します。地震、台風、水害、感染症、火災、停電、通信障害、システム障害、サイバー攻撃などが対象になります。

リスクを並べるだけでは、具体的な対策につながりません。拠点が使えない、従業員が出社できない、基幹システムにアクセスできない、主要取引先が停止するなど、「何が使えなくなるのか」まで落とし込みます。

ステップ3:重要業務の復旧目標を決める

想定リスクと被害を整理したら、重要業務ごとに復旧目標を決めます。緊急時に、すべての業務を同時に復旧させることはできません。

たとえば、安否確認は発災後できるだけ早く、顧客対応は当日中、受発注業務は24時間以内、基幹システムは48時間以内など、業務ごとに目標を設定します。復旧目標は理想ではなく、人員、設備、システム、代替手段を踏まえた現実的な時間にします。

※復旧目標を設定する際は、BCPに欠かせない目標復旧時間(RTO)とは?RPO・RLOとの違いも解説 を参考にしてください。

ステップ4:緊急時の体制と役割分担を決める

緊急時に誰が判断し、誰が実務を担うのかを決めます。BCP責任者、代理責任者、安否確認担当、情報収集担当、社内連絡担当、社外連絡担当などを整理します。

平常時の組織図をそのまま使うだけでは、災害時に対応が止まる場合があります。責任者が出社できない、連絡が取れない、被災しているといった事態を想定し、代理責任者と判断の引き継ぎルールまで決めます。

ステップ5:安否確認・連絡手段を整備する

災害時は、従業員の安否確認が初動対応の起点になります。従業員が無事なのか、出社できるのか、在宅で業務を続けられるのかを把握できなければ、重要業務の継続判断もできません。

BCPマニュアルには、安否確認の対象者、連絡手段、回答内容、未回答者への対応、集計担当、社外連絡の基準を記載します。電話やメールだけに依存せず、複数の連絡手段を用意します。

ステップ6:代替手段と初動対応フローを作成する

通常の拠点、人員、設備、システム、取引先が使えない場合の代替手段を決めます。別拠点や在宅勤務への切り替え、代理担当者の設定、バックアップデータの利用、代替取引先の確保などが該当します。

重要商品や重要サービスがある場合は、提供を継続するために必要な資源も整理します。人員、設備、原材料、システム、協力会社、物流手段を確認し、通常どおりに使えない場合の代替策を決めます。

あわせて、発災直後から復旧判断までの流れを整理します。安全確保、安否確認、被害状況の確認、BCP発動判断、代替手段への切り替え、社内外への連絡、通常業務への復帰判断までを、時系列で確認できる形にします。

ステップ7:訓練・見直しのルールを決める

最後に、訓練・見直しのルールを決めます。作成したマニュアルをそのまま保管しているだけでは、連絡先の変更、担当者の異動、システム変更などに対応できません。

まずは安否確認訓練や初動対応訓練など、実施しやすい範囲から始めます。訓練後は、回答率、連絡にかかった時間、判断に迷った点、担当者が対応できなかった箇所を確認し、マニュアルに反映します。組織変更、拠点変更、取引先変更、システム変更があった場合も、内容を更新します。

BCPマニュアルのテンプレートを活用する方法

BCPマニュアルを一から作成しようとすると、必要項目の洗い出しや記載順の整理に時間がかかります。初めて作成する場合は、テンプレートを使うことで、基本項目を確認しながら効率的に進められます。

ただし、テンプレートは作成を補助するものです。項目を埋めるだけでは、自社の実態に合ったBCPマニュアルにはなりません。事業内容、拠点、従業員数、取引先、利用システム、想定リスクに合わせて修正します。

テンプレートを使うメリット

テンプレートを使うメリットは、BCPマニュアルに必要な項目を漏れなく確認できることです。

BCPマニュアルには、基本方針、重要業務、被害想定、発動基準、緊急時の体制、連絡手段、代替手段、復旧目標、訓練・見直し方法など、多くの項目があります。テンプレートを使えば、ゼロから様式を作る手間を抑えながら、記載すべき内容を整理できます。

初めてBCPマニュアルを作成する場合や、既存マニュアルを見直す場合は、テンプレートが検討漏れの確認に役立ちます。ただし、テンプレートの項目を埋めること自体を目的にしてはいけません。

テンプレートを使う場合は、社名、作成日、更新日、作成部署、管理責任者も明記しておきます。BCPマニュアルは定期的に見直すため、いつ作成し、誰が管理し、どの版が最新なのかを確認できる状態にしておきます。

テンプレートを埋めただけでは実践で使いにくい

テンプレートを使う際に避けたいのは、一般的な表現のまま残すことです。「重要業務を継続する」「関係者へ速やかに連絡する」「必要に応じて代替手段を検討する」といった記載では、災害時に担当者が動けません。

BCPマニュアルでは、抽象的な方針を、実際の判断と行動に変えます。

抽象的な記載実践で使いやすい記載
関係者へ連絡する安否確認担当が、発災後30分以内に全従業員へ安否確認を送信する
重要業務を継続する受発注業務を優先業務とし、24時間以内の再開を目標にする
代替手段を検討する本社が使用できない場合は在宅勤務へ切り替え、クラウド上の業務システムを利用する
責任者が判断するBCP責任者が不在の場合は、代理責任者が発動判断を行う
状況に応じて見直す年1回の訓練後と、組織変更・拠点変更・システム変更時に更新する

テンプレートは、記載項目の枠組みです。担当者名、判断基準、連絡手段、復旧目標、代替手段まで具体化して、実際に使えるマニュアルにします。

自社向けに修正すべき項目

テンプレートを使う場合は、自社の実態に合わせて修正する項目を確認します。特に見直すべきなのは、重要業務、想定リスク、発動基準、責任者、連絡手段、安否確認方法、代替手段、復旧目標、訓練・見直し方法です。

たとえば、複数拠点を持つ企業では、拠点ごとの被害想定や責任者を分けて記載します。工場を持つ企業では、生産設備、原材料、代替生産体制を具体化します。ITシステムへの依存度が高い企業では、バックアップ、クラウド環境、復旧手順、アクセス権限まで整理します。

修正時は、「この内容を見て、緊急時に担当者がそのまま動けるか」を基準にします。担当者が判断に迷う記載は、具体的な条件や手順に置き換えます。

無料テンプレートを使う場合の確認ポイント

無料テンプレートを使う場合は、提供元、対象業種、対象規模、更新時期、編集しやすさを確認します。公的機関や自治体、業界団体などが公開しているテンプレートは参考になりますが、特定業種向けだったり、内容が古かったりする場合もあります。

確認するポイントは、以下のとおりです。

確認ポイント見るべき内容
提供元公的機関、自治体、業界団体、専門企業など信頼できるか
対象業種・規模自社の業種、従業員数、拠点数、組織体制に合っているか
更新時期古い前提のままになっていないか
記載項目発動基準、連絡体制、代替手段、訓練・見直しまで含まれているか
編集しやすさWord、Excelなど、自社で修正しやすい形式か
実務への落とし込み担当者、判断基準、手順まで記載できるか

無料テンプレートは、BCPマニュアル作成の出発点として使えます。ただし、安否確認方法、緊急連絡体制、発動基準、代替手段、復旧目標は、自社ごとに具体化します。

業種別にBCPマニュアルで重視すべき項目

BCPマニュアルの基本項目は共通していますが、業種によって優先すべき内容は異なります。テンプレートを使う場合も、自社の業務特性に合わせて、想定リスク、重要業務、代替手段、連絡体制を具体化します。

製造業:生産設備・原材料・代替生産体制

製造業では、工場や生産ラインが停止した場合の影響を具体化します。どの製品・工程を優先して復旧するのか、原材料や部品が不足した場合にどこから調達するのか、協力会社や物流会社が止まった場合にどう対応するのかを整理します。

「工場を復旧する」と書くだけでは、緊急時の判断には使えません。優先する製品、代替生産先、保守業者の連絡先、出荷遅延時の顧客連絡まで落とし込みます。

物流業:輸送手段・倉庫・代替ルート

物流業では、道路の通行止め、燃料不足、倉庫の被災、ドライバー不足を想定します。通常どおりの配送が難しい場合に、どの荷物や配送先を優先するのか、どの代替ルート・代替配送会社を使うのかを決めます。

配送遅延や納品不可は、荷主や配送先の事業継続にも影響します。そのため、BCPマニュアルには輸送手段だけでなく、遅延時の連絡基準、優先配送の判断、荷主への報告手順まで含めます。

医療・介護:利用者対応・職員参集・備蓄

医療・介護では、利用者・患者の安全確保とサービス継続が中心になります。災害時でも業務を完全に止めにくいため、限られた職員でどの対応を優先するのか、夜間・休日に誰が参集するのかを整理します。

備蓄、非常用電源、医薬品、衛生用品、感染症対応、行政や協力医療機関との連携も欠かせません。連絡先一覧だけでなく、どの状況で家族・行政・関係機関へ連絡するのかまで記載します。

オフィス・IT:データ復旧・リモート業務・情報セキュリティ

オフィス業務やIT関連企業では、拠点が使えなくても、システムやデータにアクセスできれば業務を継続できる場合があります。一方で、基幹システム、SaaS、社内ネットワーク、端末、認証環境が止まると、業務全体が停止するおそれがあります。

BCPマニュアルには、バックアップの場所、復旧手順、リモート業務への切り替え、端末管理、アクセス権限、障害時の顧客連絡を記載します。クラウドを使っているだけでは十分ではなく、誰が障害を確認し、どの時点で代替運用へ切り替えるのかまで決めます。

BCPマニュアルを作成する際の注意点

発動基準、役割分担、連絡手段、代替手段が曖昧なままだと、災害時に判断が分かれます。BCPマニュアルでは、緊急時に担当者が確認しながら動ける粒度まで具体化します。

最初から完璧なマニュアルを目指さない

すべてのリスクや業務を一度に整理しようとすると、作成範囲が広がり、関係部署との調整や情報収集だけで作業が膨らみます。

初めて作成する場合は、従業員の安全確保、安否確認、重要業務の継続、緊急時の連絡体制から整備します。全社のすべての業務を対象にせず、停止した場合の影響が大きい業務から絞り込みます。

BCPマニュアルは、最初から完成形を目指すより、訓練や見直しを通じて更新できる形で作成します。

発動基準を曖昧にしない

「大規模な災害が発生した場合」「事業継続が難しい場合」といった発動基準では、緊急時に判断が分かれます。通常対応を続けるのか、BCP体制へ切り替えるのかを現場で決められません。

発動基準は、誰が見ても判断できる条件に落とし込みます。たとえば、拠点所在地で震度5強以上の地震が発生した場合、主要拠点が使用できない場合、基幹システムが一定時間以上停止した場合、従業員の一定割合が出社できない場合などです。

あわせて、BCP発動を判断する責任者と、責任者不在時の代理者も決めます。発動条件と判断者が曖昧なままだと、初動対応の開始が遅れます。

※BCPの発動基準を詳しく整理したい場合は、BCPを発動する条件とは?基準や発動フローを紹介も参考になります。

緊急連絡網だけで終わらせない

緊急連絡網を作るだけでは、BCPマニュアルとしては不十分です。連絡先一覧があっても、誰が連絡し、誰が回答を集計し、集めた情報をどう判断に使うのかが決まっていなければ、事業継続の判断にはつながりません。

安否確認では、従業員へ連絡するだけでなく、安否、出社可否、被害状況、支援の必要有無を把握します。未回答者への再連絡、回答状況の集計、責任者への報告まで含めて手順化します。

連絡網は、情報を集める入口です。BCPマニュアルでは、集めた情報をもとに、重要業務を続けられるのか、代替要員を配置するのか、社外へ連絡するのかまで判断できる形にします。

担当者が変わっても使える内容にする

特定の担当者の経験や記憶に依存したBCPマニュアルは、担当者が不在になった時点で使いにくくなります。異動、退職、休職、被災により、作成した本人が緊急時に対応できないケースも想定します。

「担当者が関係部署に連絡する」といった書き方では、代理担当者が具体的に動けません。たとえば、「安否確認担当が、発災後30分以内に全従業員へ通知し、1時間後に未回答者へ再送する」のように、行動が分かる表現にします。

担当者名だけでなく、部署名、役職、代理者、連絡手段、報告先も併記します。担当者が変わっても、マニュアルを見れば同じ手順で対応できる状態にしておきます。

定期的な訓練と見直しを前提にする

BCPマニュアルは、作成時点では整って見えても、訓練すると抜け漏れが見つかります。連絡が届かない、責任者に情報が集まらない、代理者が判断できない、代替手段に切り替えられないといった問題は、実際に動かして初めて分かります。

作成段階から、訓練と見直しのルールを入れておきます。安否確認訓練や机上訓練を行い、回答率、連絡にかかった時間、判断に迷った箇所、現場で使いにくかった手順を確認します。

連絡先、担当者、利用システム、拠点、取引先は変わります。BCPマニュアルは一度作って保管する文書ではなく、訓練や組織変更に合わせて更新する文書として管理します。

BCPマニュアル作成後に必要な運用・見直し

BCPマニュアルは、社内に周知し、訓練で使い、結果を反映して更新します。作成後は、保管場所、更新頻度、管理責任者、訓練の実施頻度、改訂時の承認ルールも決めておきます。

責任者、連絡先、拠点、取引先、利用システムが古いままでは、緊急時に誤った手順で動くことになります。

社内周知と教育を行う

BCPマニュアルを作成したら、保管場所、確認方法、緊急時の連絡手段、安否確認の回答方法、部署ごとの役割を社内に共有します。

全従業員が細部まで覚える必要はありません。ただし、災害時に「どこを見ればよいか」「誰に連絡すればよいか」「自分は何を報告すべきか」は把握しておくべきです。

責任者や各部門の担当者には、発動基準、初動対応、報告ルート、社外連絡の手順まで確認しておきます。

安否確認訓練・初動対応訓練を実施する

BCPマニュアルが実際に使えるかは、訓練で確認します。まずは、安否確認訓練と初動対応訓練から始めると進めやすくなります。

安否確認訓練では、回答率、回答にかかった時間、未回答者への再連絡、集計にかかる時間を確認します。初動対応訓練では、責任者への報告、被害状況の確認、BCP発動判断、社内外への連絡、代替手段への切り替えを確認します。

最初から大規模な訓練にする必要はありません。短時間で実施できる範囲から始め、部署別訓練、拠点別訓練、代替拠点への切り替え訓練へ広げていきます。

※BCP訓練の種類や進め方を詳しく知りたい場合は、BCP訓練とは?すべき理由・種類・具体例から行う時のポイントまで も参考になります。

訓練結果をもとにマニュアルを更新する

訓練後は、うまくいかなかった箇所をBCPマニュアルに反映します。回答率、連絡にかかった時間、未回答者対応、責任者への報告ルート、代理者の判断、代替手段への切り替え可否などを確認します。

連絡先が古い、責任者に情報が集まらない、代理者が判断できない、代替手段の手順が分かりにくいといった課題が見つかった場合は、担当者の再設定、連絡手段の追加、発動基準の見直し、フローの簡略化を行います。

訓練は、実施すること自体が目的ではありません。見つかった課題をマニュアルに戻し、次回の対応精度を上げるために行います。

組織変更・拠点変更・取引先変更に合わせて見直す

BCPマニュアルは、組織や事業環境が変わるたびに見直します。責任者、連絡先、拠点、取引先、利用システム、業務フローが変われば、緊急時の対応手順も変わります。

見直しが必要になる主なタイミングは、以下のとおりです。

見直しのタイミング確認する内容
組織変更・人事異動があったとき責任者、代理責任者、連絡先、役割分担
拠点の新設・移転・閉鎖があったとき被害想定、避難場所、代替拠点、連絡体制
取引先・委託先が変わったとき代替調達先、物流会社、外部委託先の連絡先
システム変更があったとき利用システム、バックアップ、復旧手順、アクセス権限
災害・障害対応を経験したあと実際の対応で見つかった課題

年1回の定期見直しに加え、大きな組織変更やシステム変更があった場合は、その時点で更新します。古いBCPマニュアルは、緊急時の判断ミスや対応遅れの原因になります。

BCPマニュアルの運用には安否確認体制の整備も必要

BCPマニュアルに安否確認の手順を記載していても、災害時に従業員の状況を把握できなければ、初動対応は進みません。

中堅〜大企業では、従業員数や拠点数が多く、電話やメールだけでは連絡・回答・集計に時間がかかります。誰が無事なのか、誰が出社できるのか、どの拠点に被害があるのかを早く把握できる体制を整えます。

災害時は従業員の安否確認が初動対応の起点になる

災害発生直後は、従業員の安否確認が初動対応の起点になります。従業員の状況が分からなければ、重要業務を継続できる人員数、出社が必要な業務の担当者、在宅勤務への切り替え可否を判断できません。

安否確認では、本人の安否だけでなく、出社可否、業務対応可否、周辺被害、支援の必要有無まで把握します。これらの情報がそろって初めて、BCP責任者は重要業務の継続可否や代替要員の配置を判断できます。

安否確認は、従業員向けの連絡ではなく、BCPを動かすための最初の情報収集です。

手作業の連絡網だけでは確認・集計に時間がかかる

電話やメールを使った手作業の連絡網では、災害時に確認と集計が遅れます。電話がつながらない、メールの確認が遅れる、部署ごとの報告が本部に集まらないといった問題が起こるためです。

従業員数が多い企業では、上長が部下に連絡し、回答を部署ごとに集計し、本部へ報告するまでに時間がかかります。回答が電話、メール、チャットに分散すれば、誰が未回答なのか、どの部署で確認が止まっているのかも分かりにくくなります。

連絡網は、あくまで連絡先の一覧です。BCPマニュアルでは、誰が連絡し、誰が回答を集計し、未回答者にどう再連絡し、集めた情報を誰が判断に使うのかまで決めます。

安否確認サービスを使うと連絡・回答・集計を効率化できる

安否確認サービスを使うと、従業員への一斉通知、回答状況の確認、未回答者への再通知、回答結果の集計をまとめて行えます。手作業の連絡網よりも、初動対応に必要な情報を把握しやすくなります。

BCPマニュアルに安否確認手順を記載するだけでは、災害時に運用できるとは限りません。どの手段で連絡し、誰が回答状況を確認し、どの時点で未回答者へ再連絡するのかまで、実際の運用手順として整えます。

トヨクモの「安否確認サービス2」は、災害時の一斉通知、安否確認、回答集計、未回答者への再通知を支援するサービスです。BCPマニュアルに記載した安否確認体制を、実際に動かすための手段として活用できます。

BCPマニュアルの実効性は、文書の完成度だけでは決まりません。災害時に連絡し、回答を集め、判断に使える仕組みまで整えておく必要があります。

BCPマニュアルはテンプレートを活用しながら自社向けに整備しよう

BCPマニュアルは、災害やシステム障害などの緊急時に、従業員の安全確保と重要業務の継続・復旧を進めるための実行手順書です。

作成時は、基本方針、想定リスク、重要業務、発動基準、役割分担、安否確認方法、代替手段、復旧目標を整理します。誰が、何を、どの順番で対応するのかを具体化することで、緊急時の判断に使えるマニュアルになります。

テンプレートを使えば、必要な項目を整理しながら作成を進められます。ただし、項目を埋めるだけでは不十分です。自社の業務内容、拠点、従業員数、取引先、利用システムに合わせて修正し、実際に使える内容へ落とし込みます。

作成後は、社内周知や訓練を行い、連絡体制や初動対応が機能するかを確認します。特に安否確認は初動対応の起点になるため、手作業の連絡網だけでなく、安否確認サービスの活用も含めて、災害時に連絡・回答・集計を行える体制まで整えておきましょう。

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監修者:竹上 将人(たけがみ まさと)


竹上経営コンサルティングオフィス 代表 名古屋市中小企業振興センターにて、中小企業診断士として中小企業に対する経営診断業務、BCP策定支援・啓発普及業務を経験。2014年4月に竹上経営コンサルティングオフィスとして独立しBCPをメイン業務に事業再生などの経営コンサルティングやセミナー講師として活動している。 BCPコンサルティングの実績はトップクラスで、これまで製造業、建設業、介護施設など数十社のBCP策定支援を行っている。また、セミナー講師として、全国自動車整備協業協同組合、名古屋市、名古屋商工会議所、岐阜商工会議所、羽島商工会議所、あいち産業振興機構、豊川信金などBCPを中心に実績がある。 プロフィール:https://www.takegami-consulting.jp/?page_id=4

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編集者:坂田 健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社

企業の防災対策・BCP策定を支援するメディア「トヨクモ防災タイムズ」を運営。防災・BCPの専門家として、セミナー講師や専門メディアでの記事執筆も行う。 主な執筆記事に「BCPって何? ~中小企業の経営者が知っておくべき基礎知識~」「他人事では済まされない! BCP未策定が招く経営危機と、”備える”ことの真の価値とは?」(ともにニッキン ONLINE PREMIUM)などがある。

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