インクルーシブ防災とは?取組事例や企業でできることをわかりやすく解説

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トヨクモ防災タイムズ編集部

地震や水害など、予測困難な災害が頻発する日本において、「誰ひとり取り残さない防災」であるインクルーシブ防災が注目されています。

本記事では、そのインクルーシブ防災の概要や広まった背景、行政・教育現場での取組事例を紹介します。後半では、企業がどのように取り組めるのかを詳しく解説するので、企業の防災体制を強化したい方はぜひ参考にしてください。

インクルーシブ防災とは

インクルーシブ防災とは、年齢や性別、国籍、障がいの有無、疾病、経済状況などに関わらず、すべての人の命を守ることを目的とした防災の考え方です。「インクルーシブ」は、英語の「include(含める)」に由来した言葉で、「誰も排除しない」という意味合いを持っています。

従来の災害対策では、自力での避難や情報入手が可能な人を前提とした計画が多く、結果的にさまざまな制約を持つ人々への配慮が不足していました。インクルーシブ防災では、そうした現実を踏まえ、それぞれのニーズに合わせた支援や環境整備を、平時から計画・準備しておくことを重視しています。

インクルーシブ防災が広まるきっかけ

インクルーシブ防災が注目されるようになった大きなきっかけは、2015年3月14日〜18日に宮城県仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」です。この国際会議は、防災に関する世界的な指針を10年ごとに更新するもので、100名以上の閣僚や国連機関の代表、NGOなど、計6,500人以上が一堂に会し、今後の防災戦略を議論しました。

第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組2015-2030」では、障がいのある人々が防災の重要なステークホルダーの一員として位置付けられました。さらに注目すべきは、会議運営そのものがインクルーシブな姿勢を示した点です。手話通訳や会場のバリアフリーなど、さまざまな配慮が施されました。これにより、障がいのある参加者も積極的に議論に参加できる環境が整えられ、「誰もが参加できる会議」のモデルケースとなりました。

東日本大震災が浮き彫りにした課題:障がい者の高い死亡率

2011年に発生した東日本大震災は、国内観測史上最大の地震です。犠牲者は死者約1万6千人、行方不明者約3千人、負傷者約6千人という甚大な人的被害となりました。しかし、この悲劇のなかでもとくに衝撃的だったのが、障がい者の死亡者率が非常に高かったことです。

たとえば、宮城県南三陸町では全体の死亡率が4.5%程度だったのに対し、障がい者の死亡率は13%と3倍近い差が生じています。また、岩手県宮古市では全体の死亡率が0.9%でしたが、障がい者の死亡率は1.1%と、高い数値となっています。

この調査結果では、「障がい者は災害時により大きなリスクに直面するため、防災計画において障がい者への配慮や支援体制の強化が緊急の課題であること」を浮き彫りにしています。

(参考:「震災と障害者」<4>東日本大震災における障害者の死亡率|内閣府

インクルーシブ防災の取組事例

ここでは、実際に行われているインクルーシブ防災の取組事例として、大分県別府市と宮城県女川町の女川高等学園での実践を紹介します。

別府市

大分県別府市のインクルーシブ防災への取り組みは、2007年の別府群発地震とマンション火災死亡事故がきっかけとなりました。この災害で自力避難が困難な障がい者の不安が明らかになり、「福祉フォーラムin別杵速見実行委員会」が主体となって市と協働したプロジェクトの発足に至りました。

2014年には「別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」が制定され、防災における合理的配慮が明記されています。さらに2016年から「別府市におけるインクルーシブ防災事業」が始まり、以下のような取り組みが実施されています。

  • 要配慮者支援の仕組みづくりと関係機関の連携推進
  • 要配慮者の個別避難計画の作成
  • 要配慮者が参加する避難訓練と避難所運営訓練の実施
  • 要配慮者による「障がい者のゆるやかな安心ネットワーク」の構築
  • 福祉事業所などによるBCP(事業継続計画)の作成支援

(参考:「別府市におけるインクルーシブ防災事業」について|内閣府

女川高等学園

宮城県立支援学校女川高等学園は、東日本大震災で甚大な被害を受けた女川町に2016年に開校した特別支援学校です。軽度の知的障がいのある生徒が入学する3年間全寮制の高等学園で、卒業後の就職を目指して専門的な科目を学びます。

震災の教訓を活かした防災教育プログラムを実施しており、防災訓練には独自の工夫が取り入れられています。主な特徴は、以下のとおりです。

  • 生徒の責任感を育てるために、生徒がプログラムの進行を行う
  • 避難所の運営訓練を実施する
  • 総務班、広報班、環境整備班、安全点検班、救護班、給食給水班で役割を分ける
  • 地域住民の協力を得て、炊き出し訓練を実施する

生徒たちは訓練の中で運営者の役割を経験し、災害時に必要な判断力や伝える力を実践的に身につけます。

参考:国立障害者リハビリテーションセンター  (WHO 指定研究協力センター)『障害インクルーシブ防災 日本の経験』

企業がインクルーシブ防災に取り組む重要性

近年、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進により、企業で働く従業員の多様性はますます広がっています。厚生労働省の『令和6年 障害者雇用状況の集計結果』によると、民間企業で雇用されている障がい者の数は677,461.5人で、前年より5.5%増加し、21年連続で過去最高を更新しました。

障がい者の雇用者数の内訳をみると、身体障がい者は368,949.0人、知的障がい者は157,795.5人、精神障がい者は150,717.0人となっており、いずれも前年より増加しています。

以下の表に、企業規模別に実雇用率の状況をまとめました。企業規模別の実雇用率を見ても、小規模企業から大企業まで幅広く障がい者が雇用されていることがわかります。

【企業規模別の状況 】

常用労働者数実雇用率
40.0~43.5人未満2.10%
43.5~100人未満1.95%
100~300人未満2.19%
300~500人未満2.29%
500~1,000人未満2.48%
1,000人以上2.64%

(参考:厚生労働省『令和6年 障害者雇用状況の集計結果』

企業で働く障がい者の割合が年々高まっているいま、十分に配慮をして災害対策を講じなければ、命に関わる問題に直結します。従業員全員の命を守るためには、誰もが安全に避難できる環境を整備しなければなりません。

企業でできるインクルーシブ防災の取り組み

企業においても、多様な従業員が安全に避難できるインクルーシブ防災の取り組みが求められています。障がいのある従業員や外国人従業員、高齢従業員など、さまざまな特性を持つ人々が働く現代の職場環境では、防災計画にも多様性への配慮が不可欠です。

ここでは、企業が実践できるインクルーシブ防災の具体的な取り組みについて紹介します。

避難通路をバリアフリー化する

階段や段差などが避難通路にある場合、移動に制約のある人の避難が遅れてしまう可能性があります。誰もが速やかに避難できるように、物理的障壁を取り除き、バリアフリー化することが重要です。

具体的なバリアーフリー対策には、以下のものが挙げられます。

  • 車椅子でも通れるように、十分な幅を確保する
  • 避難経路上の段差にスロープを設置し、車いす利用者も使用できるようにする
  • 非常口までの動線に障害物を置かないようにする

備蓄品を拡充する

従来の備蓄品は健常者を前提としたものが多く、特別なニーズに対応できないケースがありました。障がいのある従業員や外国人従業員など多様な人々のニーズに対応できるよう、一般的な食料や水、毛布などに加えて、自社の従業員の特性に合わせた備蓄品を用意しましょう。

たとえば、聴覚障がいのある従業員がいる場合は、筆談用のホワイトボードやタブレットなどのコミュニケーションツールを用意しておくとよいでしょう。また、イスラム教徒の従業員がいる職場では、イスラム法の基準を満たした「ハラール対応食品」を備蓄しておくことにより、誰もが安心して食事ができる環境を整えられます。

障がいのある社員も含めて防災訓練を実施する

インクルーシブな防災体制を構築するためには、障がいのある社員も含めた全従業員参加型の防災訓練が不可欠です。障がいのある社員も含めた防災訓練を実施することにより、実際の災害時に起こり得る問題点を事前に発見し、改善できます。たとえば、「車いす利用者が通れない通路がある」「避難指示が視覚障がい者に伝わっていない」といった課題が見えてくるでしょう。

訓練後には必ず振り返りの時間を設け、参加者からのフィードバックを集めることが重要です。とくに障がいのある従業員からの意見は、当事者ならではの視点で防災計画の改善に役立ちます。これらの意見を基に、避難計画やマニュアルを見直し、より実効性の高い防災体制を構築していきましょう。

多言語対応の防災マニュアルを作成する

企業には、日本語以外を母語とする社員がいることも珍しくありません。災害時に適切な行動を取ってもらうために、多言語対応の防災マニュアルを作成しましょう。

防災マニュアルを多言語対応にする際には、英語や中国語だけでなく、企業内に実際に在籍している社員の母語を優先的に取り入れることがポイントです。また、視覚的に理解できるように、イラストや図を活用するのもおすすめです。

企業防災には安否確認システムの導入も効果的

災害発生時、インクルーシブ防災を含むあらゆる防災活動の第一歩は、従業員の安否確認です。安否確認システムは、災害時に従業員やその家族の安否を迅速に確認するためのツールです。自動で安否確認メッセージを通知し、さらには自動で従業員からの回答結果も集計できるため、効率的に安否確認を行えます。

大規模な災害時には電話回線が混雑したり、通信インフラ自体が被害を受けたりすることがあり、従来の電話による確認方法では迅速な対応が難しくなります。一方、多くの安否確認システムはインターネット回線を利用しているため、電話回線が混雑している状況でも比較的安定した運用が可能です。

災害時の混乱した状況においても、従業員の安全を迅速に把握するためには、安否確認システムの導入が有効な対策といえるでしょう。企業の規模に合わせたシステムを選ぶことをおすすめします。

安否確認システムの導入なら『安否確認サービス2』

▲出典:安否確認サービス2

安否確認システムを選ぶ際には、誰もが使いやすく、確実に機能するものを選ぶことが重要です。トヨクモの『安否確認サービス2』は導入社数4,000社以上で、サービス利用継続率99.8%という実績を持つおすすめの安否確認システムです。

メインのデータサーバーは日本ではなく、地理的に比較的近いシンガポールに設置しています。シンガポールは電力事情が安定しているだけでなく、過去100年間で大規模な地震や津波による被害は報告されていません。地震や津波リスクが低い世界各地にサーバーを分散配置することにより、国内で大規模災害が発生した場合でも、安否確認システム自体が被災する可能性を大幅に減らし、いざというときの安定稼働を担保しています。

安否確認サービス2では、企業規模やニーズに応じて4つのプランが用意されています。

プランライトプレミアファミリーエンタープライズ
料金(税込)※7,480円9,680円11,880円16,280円
主な機能・手動一斉送信
・自動集計
・掲示板
・メッセージ
・LINE連携(オプション)
・手動一斉送信
・災害連動の自動一斉送信
・自動集計
・掲示板
・メッセージ
・LINE連携(オプション)
・ファイル添付
・SmartHR人事情報連携
・freee人事情報連携
・kintoneアプリ連携
・手動一斉送信
・災害連動の自動一斉送信
・自動集計
・掲示板
・メッセージ
・LINE連携(オプション)
・ファイル添付
・SmartHR人事情報連携
・freee人事情報連携
・kintoneアプリ連携
・家族の安否確認
・手動一斉送信
・災害連動の自動一斉送信
・自動集計
・掲示板
・メッセージ
・LINE連携(オプション)
・ファイル添付
・SmartHR人事情報連携
・freee人事情報連携
・kintoneアプリ連携
・家族の安否確認
・API人事情報連携
・グループ会社との利用

※50ユーザーまで利用する場合

30日間の無料お試し期間が用意されており、すべての機能を制限なく体験できます。無料お試し期間が終了しても自動課金されることはないため、実際に使い勝手を確認してから導入を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ:誰も取り残さない防災を、企業の力で実現する

インクルーシブ防災は、障がいのある人や高齢者、外国人従業員など、多様な立場にある人々に配慮して防災体制を整える考え方です。災害のリスクが高まるなか、企業において「誰もが安全に避難できる環境」を整えることは社会的な責任であると同時に、企業の持続的な成長にとっても不可欠な要素です。

避難経路のバリアフリー化、多様なニーズに応える備蓄品の準備、全員参加型の訓練、多言語対応など、企業ができることは数多くあります。まずは自社の状況を確認し、できることから一歩ずつ取り組みを始めることが大切です。

そして、その基盤となるのが、従業員の安否を迅速かつ確実に把握する体制です。『安否確認サービス2』のような信頼できるツールを活用し、インクルーシブな視点を取り入れた防災対策を進めることにより、「誰ひとり取り残さない」社会の実現に貢献していきましょう。

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