不動産業が抱える災害リスクとBCP策定の重要性|事例やポイントも

トヨクモ防災タイムズ編集部
不動産業界においては、自社の商品となる不動産や従業員、顧客を守るためにBCPを策定する必要があります。とくに、不動産は各地にあるケースが多く、それぞれの土地に合わせた対策を立てなければなりません。
しかし、リソースやコストの不足などにより、BCP策定に課題を感じている担当者の方も多いでしょう。そこで今回は、不動産業界におけるBCP策定の重要性や流れ、ポイントなどを紹介します。
課題を解決するために便利なツールも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
不動産業界におけるBCPの重要性
不動産業界は、多岐にわたるリスクに晒されており、事業継続のためにはBCPの策定が不可欠です。まずは、不動産業界を取り巻くリスクとBCPがない場合の事業への影響を紹介します。
不動産業界を取り巻くリスク
不動産業界を取り巻く主なリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 自然災害
- システム障害
- 感染症
まず、地震・津波・台風・洪水などの自然災害は、地域によっては甚大な被害をもたらす可能性があります。各地に不動産を所有している場合は、それぞれの地域で発生する自然災害に注意しなければなりません。これらの災害は物件の損害だけでなく、顧客や従業員の安全にも関わるでしょう。
また、不動産業界では顧客情報、契約情報などの重要なデータを扱うため、システム障害は業務停止に直結します。自社での情報漏洩だけでなく、サイバー攻撃による情報漏洩のリスクも考慮する必要があります。
感染症によるパンデミックなどが発生した際には、従業員の出勤停止や顧客対応の制限などにより、業務に大きな影響が出る可能性もあり、注意が必要です。
そのほかにも、経済状況の変動や取引先の倒産、風評被害など多くのリスクが存在します。
BCPがない場合の事業への影響
BCPがない場合、以下のような影響が出る可能性があります。
- 顧客との信頼関係の損失
- 売上減少
- 法的責任
- 事業の継続困難
たとえば、緊急時に適切な対応ができない場合、顧客からの信頼を失い、長期的な取引に影響が出る可能性があります。BCPを策定しなかったことにより、業務停止期間が長引いてしまえば、売上減少にもつながりかねません。
顧客や従業員の安全確保を怠った場合、法的責任を問われるケースもあります。最悪の場合、事業の継続が困難になる場合も考えられるため、BCPの策定は非常に重要です。
不動産業界が取り入れるべき対策
不動産業界が取り入れるべき対策は多岐にわたりますが、ここではとくに重要となる5つの対策について紹介します。
被害状況を迅速に把握する
災害発生時、不動産業界は広範囲にわたる物件の被害状況を迅速に把握する必要があります。ドローンなどの技術を上手く活用し、広い範囲の被害状況を素早く効率的に把握する体制を構築しましょう。
また、顧客からの被害状況やさまざまな報告を受け付けるための専用窓口やシステムを用意しておき、情報収集の迅速化を図ることも重要です。
とくに、不動産業界は各地に物件を所有しているケースがほとんどなので、各地域からの情報を素早く集めるシステムの構築が欠かせません。所有している物件の数、場所などに合わせてシステムを構築しましょう。
重要書類を保護する
不動産業界は、契約書や顧客情報など、重要な書類を多数保管しています。これらの書類は、事業継続に不可欠であり、厳重に保護しなければなりません。耐火・耐水性能の高い保管庫を使用する、電子化して複数の場所にバックアップを取るなどの対策が必要です。
万が一、流出してしまうと顧客や取引先からの信頼を大きく失うことになるだけでなく、事業の継続も難しくなってしまいます。必ず、災害に備えて事前に対策を講じておきましょう。
電子データのバックアップを取る
不動産業界は、顧客情報や契約情報など、大量の電子データを扱っています。重要書類と同じく事業継続に不可欠なものなので、定期的にバックアップを取る必要があります。
クラウドサービスを活用し、複数の場所にバックアップデータを保管することで、データ消失のリスクを最小限に抑えることが可能です。ただし、さまざまな場所に保存することは流出のリスクを高めることにもつながるため、管理は徹底的に行いましょう。
建物の補強をする
不動産業界は、多数の建物を管理しているケースがほとんどです。管理している建物のなかには、地震や台風などの自然災害に対して脆弱なところが含まれている場合もあります。
建物の耐震性や防水性を強化することで建物被害を最小限に抑え、事業継続性を高めましょう。契約前に確認することも大切ですが、すでに契約している建物については、自社で補強をする必要があります。
ハザードマップを確認する
管理する物件が位置する地域のハザードマップを確認し、災害リスクを事前に把握することも大切です。ハザードマップを確認すれば、浸水や土砂災害などのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることができます。
地域によって起こりやすい災害が異なるため、自社が所有している物件、または所有しようとしている物件の場所に合わせて、それぞれの地域について調査しましょう。
BCP策定の具体的なステップ
BCP(事業継続計画)策定は、緊急時における事業の継続性を確保するために不可欠です。ここでは、具体的な策定ステップを紹介します。
目的設定と中核事業の特定
BCP策定の主な目的は、企業が災害や事故などの緊急事態に遭遇した際に、事業の継続または早期復旧を図り、損害を最小限に抑えることです。具体的な目的としては、従業員の安全確保や顧客・取引先との信頼関係維持などが挙げられます。緊急時に対応するためには、目的意識の全社的な共有が欠かせません。周知が不十分だと、BCPを策定しても実際の緊急時に機能しない可能性が高くなります。
また、中核事業の特定もBCP策定の初期段階の重要なステップです。中核事業とは、企業の存続に不可欠な事業であり、緊急事態が発生した場合でも優先的に継続または復旧させるべき事業を指します。利益への貢献度や取引先への影響度、事業の依存度などを踏まえて自社の中核事業を特定しましょう。
リスクアセスメントを行う
リスクアセスメントでは、事業を取り巻くリスクを洗い出し、それぞれの発生確率と影響度を評価します。自然災害・システム障害・感染症・取引先の倒産など、あらゆるリスクを想定して事業への影響を分析しましょう。
この分析結果は、BCP策定の基礎となります。自社で起こり得るリスクをしっかりと洗い出し、それぞれを正しく評価することが大切です。
優先順位をつける
中核事業やリスクが分かったら、次に業務内容に優先順位をつけましょう。リスクアセスメントの結果を踏まえ、事業継続のために優先すべき業務を特定することが大切です。
- 顧客対応
- 契約管理
- 基幹システムの維持
上記のように、停止した場合に事業への影響が大きい業務から優先的に対策を検討することが大切です。優先順位をつけることにより、限られた時間や資源を効果的に活用できます。優先順位は業界や企業によって異なるため、社内でしっかり検討しましょう。
とくに、不動産事業においては顧客対応が重要となるケースが多くあります。顧客を失えば、倒産に直結してしまうため、最優先事項として対策を立ててください。
具体的な対策を決める
続いて、優先業務の継続に必要な具体的な対策を決定します。代替オフィスやリモートワーク環境の整備、データのバックアップ体制の構築、取引先の代替手段の確保など、リスクの種類に応じて適切な対策を講じる必要があります。
対策は、具体的な行動計画に落とし込み、「誰が」「いつ」「何を」行うかを明確にするところまで立てることが重要です。
従業員への周知を行う
策定したBCPは従業員全員に周知し、理解を深めてもらう必要があります。ただ策定しただけでは社内に浸透せず、災害が起きた際にスムーズに動くことができません。
緊急時の役割分担や連絡体制、行動手順などを共有し、従業員が適切に行動できるように訓練を行える環境を作っておきましょう。BCPは従業員全員が理解し、実践できるものでなければ意味がありません。周知するのはもちろんですが、無理のない内容で策定しましょう。
訓練・見直しを定期的に実施する
策定が完了したら、BCPの実効性を確認するために定期的に訓練を実施しましょう。机上訓練や実動訓練など、さまざまな形式で訓練を行い、BCPの問題点や改善点を洗い出します。
また、社会情勢や技術の変化に合わせてBCPを定期的に見直し、最新の状態に更新する必要もあります。災害リスクなどは、随時変化していくものです。一度、BCPを策定したからといって油断せず、常に状況を見ておくことが大切です。
不動産業におけるBCP対策のポイント
不動産業界におけるBCP対策は、顧客との信頼関係を維持し、事業を継続するために不可欠です。以下で、そのポイントを詳しく解説します。
顧客とのコミュニケーションを大切にする
災害発生時、多くの顧客は不安を感じているはずです。迅速かつ正確な情報提供は、顧客の安心につながります。電話・メール・SNSなど、複数の連絡手段を確保し、顧客からの問い合わせに丁寧に対応することが大切です。
緊急時こそ、顧客との信頼関係を深めるチャンスです。誠実な対応は、長期的な関係構築につながります。万が一のことがあった際の対応は、顧客からの信頼度を大きく左右するでしょう。素早い事業回復につなげるためにも、顧客対応は優先して行うべきです。
取引先と連携する
災害発生時、自社だけで対応できない事態も想定されるため、協力会社や関係機関との連携は不可欠です。事前に連携体制を構築し、役割分担や連絡手段を事前に明確にしておきましょう。
行政機関・業界団体・インフラ関連企業など、幅広い関係機関との連携も重要です。緊急時には、正確な情報を迅速に共有しなければならないため、取引先と協力・連携しながら対応する必要があります。
また、物資や人員の相互支援体制を構築しておくことも有効です。
普段からできる対策も行う
電子データのバックアップや建物の補強、物件購入時のハザードマップ確認など、普段からできる対策を講じることも大切です。災害が起こってからのことだけでなく、起こる前にできる対策についても考えておきましょう。
従業員の安否確認手段の確保や避難訓練の実施、非常用備蓄品の準備なども事前にできる対策として挙げられます。従業員の安否確認には、『安否確認サービス2』の利用がおすすめです。
たとえば、不動産事業を行うレオパレス21では、BCP対策強化の一環として2023年4月にサービスを導入し、緊急時の安否確認を自動化して、迅速で確実な初動対応を実現しました。
詳しくは以下の事例記事を参照ください。
株式会社レオパレス21 緊急時の安否確認を自動化ステークホルダーを守る確実な初動対応を実現
不動産業界のBCP策定例
ここでは、公益社団法人不動産協会が「都内に数棟以上の管理物件を保有している不動産会社」を想定して作成したBCPを紹介します。
主な内容は、以下のとおりです。
- 生命の安全確保
- 管理物件の物的被害軽減と二次災害防止
- 指揮命令系統の明確化
- 本社など重要拠点の機能の確保
- 対外的な情報発信および情報共有
- 情報システム・重要な情報のバックアップ
- サービス供給のための組織横断的な協力体制の構築
- 地域との協調・地域貢献
- 共助・相互扶助
それぞれの具体的な例が記載されており、事前対策・初動対応・復旧対応の3つに分けて書かれていました。たとえば、「本社など重要拠点の機能の確保」の項目では、以下の例が挙げられています。
事前対策 | 非常用電源の供給確保拠点間の通信手段の整備 |
初動対応 | 管理物件の情報収集代替拠点への移動計画の立案 |
復旧対応 | 代替拠点への移動社内外への通知 |
より詳しい内容は、以下を参考にしてください。
不動産業界におけるBCP策定の課題
不動産業界におけるBCP策定は、多くの企業にとって多くの課題が存在します。以下で、その主な課題を紹介します。
専門知識が不足している
不動産業界は、多岐にわたるリスクに対応する必要があります。しかし、自然災害・システム障害・感染症など、各リスクに対する専門知識を持つ人材が不足している企業は多いです。
BCP策定には、リスクアセスメントや事業継続戦略の策定、訓練・見直しなど専門的な知識と経験が求められます。専門知識を持つ人材が不足していると、自社に合ったBCPが策定できない可能性があります。
リソースが少ない
リソースが少ないことも、BCP策定における大きな課題の1つです。とくに中小企業では、BCP策定に割ける人員や時間が限られている場合が多くあります。
通常業務と並行してBCPを策定・運用することは、人的リソースの制約から困難な場合があります。BCP策定に必要な情報収集や訓練の実施にも、時間的・人的リソースが必要となるため、簡単には策定できないのが現状です。
コストが足りない
BCP策定には、専門家への依頼やシステム導入、訓練実施など、さまざまなコストが発生します。とくに、ITシステムの導入や建物の補強など、大規模な対策には多額の費用がかかることも考えられるでしょう。
BCP策定の必要性を理解していても、予算の制約から十分な対策を講じられないこともあるはずです。
BCP策定の課題解決には『BCP策定支援サービス(ライト版)』がおすすめ
不動産業界におけるBCP策定は、多くの企業にとって専門知識の不足やリソースの制約、コストの問題など、さまざまな課題が存在します。これらの課題を解決し、効果的なBCPを策定するためには、『BCP策定支援サービス(ライト版)』の導入がおすすめです。
1ヶ月15万円と低価格で利用でき、専門的な知識を持つコンサルタントを付けるよりも安価な費用でBCPを策定できます。知識のある人材がいなくても、詳細なマニュアルがあるため、約1ヶ月と短期間で策定できるのも大きな魅力です。
想定すべきリスクの多い不動産業においても、業界特有の課題やリスクに合わせたBCPを策定することができます。ぜひ、この機会に導入を検討してはいかがでしょうか。
BCP策定で不動産をしっかり守ろう
今回は、不動産業界におけるBCP策定について詳しく解説しました。
不動産業界では自然災害や感染症に加え、情報の流出やシステム障害といったリスクも発生しやすい傾向にあります。これらのリスクを踏まえ、万が一の際に迅速に対応できるようなBCPを策定しておくことが非常に重要です。
スムーズにBCPを策定したい場合は、ぜひ『BCP策定支援サービス(ライト版)』の導入を検討してください。専門知識がない場合でも、最短1ヶ月程度で策定が完了します。1ヶ月で15万円と比較的安価なため、コストを抑えたい企業にもピッタリです。