防災備蓄品の管理義務とは?企業に課せられている理由や準備すべきものを紹介

トヨクモ防災タイムズ編集部
企業は従業員の安全確保や法令遵守のため、防災備蓄品の管理が義務付けられています。自然災害の規模やライフラインの被害状況によっては、従業員が自宅に帰宅できないケースも考えられます。
ライフラインが復旧するまでは事業所で生活するため、防災備蓄品の十分な確保が必要です。従業員の不安や物資不足の影響を軽減するには、どのようなものを準備すべきでしょうか。
この記事では、企業が用意すべき防災備蓄品の種類や備蓄品以外の防災対策などに関して、紹介します。防災対策の強化に取り組んでいる方は、最後までご覧ください。

目次
企業に課せられている防災備蓄品義務とは
地震や津波、土砂災害などの大規模な自然災害が発生した場合、企業は従業員の命を守るための対策を最優先に取らなければなりません。
自然災害は次にどのような被害をもたらすか、予測不可能です。道路の被害状況や交通機関への影響がわからない状況で、従業員に帰宅を命じる行為は非常に危険です。
水や食料、衛生用品などを十分に確保し、事業所で一定期間生活できる環境を整えていれば、帰宅途中で二次災害に遭うリスクを避けられます。
また、労働契約法や労働安全衛生法には、企業が従業員の安全に配慮・確保するよう、記載されています。上記の法律は自然災害を含む緊急事態の際にも適用されるため、企業は常に従業員の安全確保に努めなければなりません。
法令遵守と従業員の安全確保のため、防災備蓄品の管理が必要です。
防災備蓄品義務が企業に課せられている理由
防災備蓄品が義務化されている理由には、以下の3つがあげられます。
- 従業員の安全確保のため
- 自治体や救急の対応を邪魔しないため
- 最短で事業を復旧させるため
ひとつずつ内容を見ていきましょう。
従業員の安全確保のため
防災備蓄品を用意しておく目的は、従業員の安全を確保するためです。法律にもとづき、企業は従業員の安全確保を最優先に行わなければなりません。自然災害の発生によって土砂災害や河川の氾濫など、二次災害が起きる可能性もあります。
また、道路や交通機関への影響がわからない状態で、従業員に帰宅を許可するのは非常に危険です。安全配慮義務に違反している行為ともいえるため、ライフラインへの影響や復旧作業の必要性など、状況を正確に把握できるまでは、事業所内での待機を命じましょう。
事業所内で最低限の生活水準を保つためにも、飲料水や食料、寝袋など、防災備蓄品の用意が必要です。
自治体や救急の対応を邪魔しないため
災害発生時には救急や消防、自治体によって、被害状況の把握や消火活動、避難所の設置などが行われます。従業員に自宅への帰宅を許可した場合、救助活動の妨げになる可能性が生じるため、注意が必要です。
また、災害規模やライフラインの被害状況によっては、地域住民との連携が求められる可能性もあります。被害の拡大を防ぐには防災備蓄品を用意し、地域住民が避難生活を送れる環境を整備しておくことが重要です。
最短で事業を復旧させるため
事業継続には、業務を遂行する従業員を一定数確保しなければなりません。仮に帰宅を許可した場合は自宅や帰宅途中で二次災害に遭い、出社できなくなる可能性が生じます。
従業員の安全を確保しつつ最短で事業を再開するには、事業所で避難生活を送れる体制を整えておく必要があります。
企業が用意すべき防災備蓄品の種類
事前に用意すべき防災備蓄品は以下のとおりです。
- 飲料水
- 生活用水
- 非常用トイレ
- 非常食
- 衛生用品
- 防寒具
- ラジオやスマートフォンの充電器
- 救助用品
具体的に用意すべきモノや必要な量などに関して述べます。
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飲料水
飲料水は水分不足にともなう頭痛や吐き気など、脱水症状を防ぐためにも必要です。飲料水は水分補給と調理用に、1人あたり1日3Lの水が必要といわれています。水道の復旧に時間がかかる点を考えると、最低でも3日分の飲料水は必要です。
たとえば、事業所で20人の従業員が働いている場合、3×20×3=180Lの飲料水を確保しておかなければなりません。
また、「市街から離れている」や「飲料水の確保が難しい」など、事業所が拠点を置く地域によっては、「非常用浄水器」の利用を検討しましょう。
非常用浄水器は池や河川などの水から不純物を除去し、人間が飲める状態にする装置です。非常用浄水器にはいくつか種類がありますが、逆浸透膜タイプがおすすめです。
逆浸透膜タイプの浄水器は、ウイルスやダイオキシン、農薬など、人体に悪影響を与える有害物質を95%以上除去します。
生活用水
生活用水は手洗いやトイレなどに使用する水です。最低限の生活水準を維持するためには、1人あたり1日10〜20Lの生活用水が必要です。
生活用水は飲料水と同様、最低でも3日分は確保しましょう。仮に事業所で働く従業員が20人の場合、600L~1,200Lの生活用水が必要です。
また、災害規模によっては、水道の復旧までに最低でも1週間〜10日前後かかる場合があります。1週間分の生活用水を確保しておくと、復旧作業が長引いても水不足のリスクを避けられるでしょう。
非常用トイレ
水道が利用できない場合に備えて、非常用トイレの確保も必要です。トイレの回数を減らすために水分補給の回数を抑えると、脱水症や熱中症など、健康状態が悪化する可能性が高まります。
また、断水状態で水洗トイレを使うと、衛生環境の悪化や悪臭の発生、感染症のリスク増大など、さまざまなデメリットが生じます。断水状態でも排泄を我慢しなくて済むよう、携帯トイレや簡易トイレを用意しておきましょう。
携帯トイレは、段ボールまたはプラスチック段ボール(プラダン)を材質に使用している使い切りタイプのトイレです。袋の中で排泄し、吸水シートや凝固剤を使用して排泄物を処理します。便座がないタイプも多く、持ち運びも便利です。
一方、簡易トイレはプラスチックや段ボールなど、軽量素材を使用しており、楽に持ち運びができるタイプのトイレです。便座や手すり付きなど、種類も多いため、用途に応じて選択できます。
非常食
非常食も飲料水や生活用水と同様、最低3日分は確保が必要です。用意しておくべき主な食料を以下に記載しました。
- 乾パン
- 缶詰
- 防災用の栄養ゼリー
- 固形用の栄養補助食品
- チョコレート
- パックごはん
- レトルト食品
- カップラーメン
上記のうち、防災用の栄養ゼリーを多く用意しておくのがおすすめです。調理不要で手軽にバランスよく栄養を補給できます。のどの渇きやアレルギーが発生しにくく、食べやすい点も魅力です。賞味期限が5年以上の商品もあり、1度購入しておけば長く保存できます。
また、パックごはんやレトルト食品、カップラーメンなどは調理に飲料水を使用します。水の確保が難しいケースも想定し、他の非常食と比べて用意する量は少なめにしましょう。
衛生用品
衛生環境の悪化にともなう感染症や食中毒の発生を防ぐためにも、衛生用品の確保が必要です。主に用意すべき衛生用品は以下のとおりです。
- トイレットペーパー
- 除菌シート
- 歯ブラシ
- 歯磨き粉
- ゴミ袋
- アルコール除菌
- タオル
- 生理用品
トイレットペーパーはティッシュの役割も兼ねており、1人あたり1日3ロール使用すると想定します。事業所で働く従業員数が20人で3日分を用意する場合、3×20×3=180ロールのトイレットペーパーが必要です。
防寒具
防寒具は冬場に自然災害が発生し、電気が利用できなくなった場合を想定して確保をしておきます。用意すべき防寒具は以下のとおりです。
- 毛布
- 寝袋
- アルミシート
- エアマット
- 使い捨てカイロ
- 保温シート
毛布は最低でも1人1枚は必要です。また、使い捨てカイロは手軽に身体を温められるため、多めに用意しておきましょう。
ラジオやスマートフォンの充電器
ラジオやスマートフォンから、災害情報やインフラの復旧状況、避難場所の設置状況などに関する情報を収集します。乾電池や充電器、モバイルバッテリーなどを用意し、電池切れを防ぎましょう。
また、スムーズに情報を取得するため、事業所内でラジオの電波が入りやすい場所を確認しておくことも必要です。
救助用品
災害規模や道路の状況によっては、救助を要請してもすぐに救急車が駆け付けられない可能性があります。負傷者の応急処置ができるよう、以下の救助用品を用意しておきましょう。
- 消毒液
- 包帯
- ガーゼ
- ばんそうこう
- ピンセット
- はさみ
- 使い捨て手袋
自社ビル以外の場所に拠点を置いている場合、事前にAEDの設置場所を確認しておくことも必要です。
企業が防災備蓄品の管理以外に対応すべき内容
防災備蓄品の管理以外に、必要な災害対策は以下の5つです。
- BCPの策定
- 定期的な防災訓練の実施
- 事業所の災害対策を強化
- ハザードマップの確認
- 緊急時の連絡手段を確保
上記の内容を実施し、リスクマネジメントの強化を図りましょう。
BCPの策定
BCP(Business Continuity Plan)とは、自然災害や感染症などが発生した際、経営資源への被害を最小限に抑えるための事業継続計画です。2024年から介護事業所にはBCPの策定が義務付けられましたが、一般企業にはまだ適用されていません。
従業員が混乱しないよう、安全確保の徹底や事業復旧の流れ、重要業務・事業の優先順位など、BCPにはさまざまな内容を記載しておきます。BCPを確認すれば、事業再開に向けた流れや必要な作業を把握できるため、復旧作業をスムーズに進められます。
自然災害と感染症用、別々にBCPを策定しておくと、緊急時の際も従業員が落ち着いて対応できるでしょう。
また、BCPの策定によって、「リスクへの備えが万全な企業」との印象を与えられ、取引先や顧客からの信頼が高まります。
定期的な防災訓練の実施
BCPの内容が充実していても、従業員の防災意識が高まらない限り、災害時に記載した内容通りに実践するのは困難です。BCPの内容を正確に理解して行動に反映するには、定期的な防災訓練の実施が必要です。
防災訓練には避難誘導訓練や消火訓練、応急救護訓練など、さまざまな種類があります。複数の訓練を実施しておくと、災害が発生しても落ち着いて対応できるでしょう。
また、防災訓練は消防にもとづき、毎年1〜2回の実施が義務化されています。防災管理上で必要な業務を怠った場合、計画にもとづく防災訓練を実施していない場合は、罰金または懲役が科せられる可能性があるため、注意が必要です。
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事業所の災害対策を強化
備品の転倒や窓ガラスの飛散によってケガをしないよう、事業所の災害対策を強化しておきます。L字金具やストッパー、粘着マットなどを活用し、各備品の固定力を強化します。
頭部のケガを防ぐため、キャビネットやロッカーの上にはモノを置いておかないようにしましょう。
また、ガラスの踏みつけによる負傷を避けるため、窓ガラスにはガラス飛散防止シートを貼っておきます。
さらに、ライフラインの停止に備えて、非常用電源の導入や用水の確保などを進めておくと、緊急時の不安も軽減されます。
ハザードマップの確認
ハザードマップとは、過去の災害履歴や気象傾向、地形の特徴などから、災害のリスクを可視化する地図です。防災マップや都市計画などは、ハザードマップの情報にもとづき作成されています。
ハザードマップは地震や洪水、大雨など、災害の種類別に作成されるため、どのような自然災害が発生しやすいか、事前に把握できます。発生頻度の高い災害対策を中心に対策を強化し、被害の軽減に努めましょう。
また、避難場所や避難経路もハザードマップ上に表示されています。災害発生後もスムーズに避難できるよう、防災訓練で避難場所への道順を確認しておくことが重要です。
緊急時の連絡手段を確保
自然災害や感染症などの緊急事態が発生した際、すぐに従業員と連絡が取れるよう、電話やメール以外の連絡手段を確保しておく必要があります。大規模災害が発生すると、多くの方が電話を使って家族や友人の無事を確認します。
実際、東日本大震災の際、通常時と比べて50~60倍のトラフィック量が発生しました。トラフィック量とは、通信回線上で交わされるデータ量です。トラフィック量が通信回線やサーバーのスペックを超える場合、輻輳(ふくそう)と呼ばれる事態を招きます。
輻輳とは通信規制やメールの受信速度低下など、通常時と比べて電話やメールがつながりにくい状態を指します。東日本大震災の際、ドコモ・au・ソフトバンクでは、70〜95%の音声通話が規制されていました。
メールはドコモのみが通信規制を行ったため、電話と比べると利用しやすい状況でした。しかし、データ処理の量はサーバーのスペックを大幅に超えており、速度遅延や位置情報の誤作動など、不具合が頻繁に発生しています。
上記の理由からIP無線機や安否確認システムなど、緊急時に備えて複数の連絡手段を確保しておかなければなりません。連絡手段の確保には、安否確認システムの導入がおすすめです。
安否確認システムは専用アプリやLINEなど、複数の連絡手段に対応可能なシステムが多いです。また、強固な災害対策を講じており、大規模災害が起きたとしても安定稼働が期待できます。
BCP対策を強化する通信手段6選!安否確認システムを導入すべき理由も紹介
防災備蓄品義務が企業に課せられている理由を理解しよう
従業員の安全確保や最短での事業復旧を実現するため、企業には防災備蓄品の管理義務が課せられています。災害対策の強化には防災備蓄品の管理に加え、複数の連絡手段を確保しておくことも重要です。
災害が発生した際は別の拠点で働く従業員も含め、全員の安否を素早く確認しなければなりません。ただし、大規模災害の際、メールや電話はつながりにくい状況です。
安否確認システムは専用アプリやLINE、SMSなど、複数の連絡手段に対応可能なシステムが多く、高確率で従業員の安否を素早く確認できます。トヨクモの提供する『安否確認サービス2』は稼働率99.8%、導入実績4,000社以上を誇る安否確認システムです。
『安否確認サービス2』はシステムへの安定性に関して、多くのユーザーから高評価を受けています。
シンガポールでメインサーバーを複数運用しており、国内で大規模災害が発生しても影響を避けられます。シンガポールは過去100年の間に、大規模な津波や地震の被害は発生していません。電力供給も安定しており、停電の発生リスクが低い点も魅力です。
また、中小企業も導入しやすいよう、月額料金は比較的リーズナブルな価格に設定されています。初期費用や最低利用期間は発生しません。30日間の無料トライアルも設けられており、ミスマッチによる無駄な費用の支払いも避けられます。
災害対策の強化に取り組んでいる方は、『安否確認サービス2』の導入をご検討ください。
企業の防災備蓄品義務に関するよくある質問
防災備蓄品の義務に関して、ユーザーから多く寄せられた質問をまとめました。
防災備蓄品の義務を守らなかった場合はどうなりますか?
防災備蓄品の準備不足が原因で従業員が重症または死亡に至った場合、裁判に発展する可能性があります。企業は労働契約法にもとづき、従業員の安全配慮が義務付けられており、防災備蓄品の管理も必要な災害対策の1つです。
従業員の怪我や労務トラブルを避けるため、防災備蓄品を準備しておきましょう。
また、東京都や大阪市など、地方自治体によっては防災備蓄品の管理を努力義務として課しています。ただし、努力義務扱いのため、防災備蓄品を準備していなくても罰則は課せられません。
災害時もインターネット回線はつながりますか?
インターネット回線は大規模災害が発生しても、比較的利用しやすいです。東日本大震災が起きた際も、津波被害が極端に大きかった地域を除き、インターネット回線は機能していました。
当時はXやLINEでの情報発信が活発で、津波警報や避難の必要性などに関する情報が盛んに投稿されていました。
また、東日本大震災後の調査で、津波よりも電力供給不足にともなう停電が大きな影響を及ぼしていた事実が判明します。
災害時も安定して通信サービスが利用できるよう、予備電源の配置や大ゾーン基地局の整備、移動電源車の導入など、停電対策が進められています。
さらに、インターネット回線が利用できない場合の対策として、ファイブゼロジャパンが導入されました。ファイブゼロジャパンとは契約の有無を問わず、キャリア各社のアクセスポイントが利用できるサービスです。
災害時にスマートフォンのWi-Fi画面からファイブゼロジャパンをタップするだけで、Wi-Fiに接続できます。パスワードの入力やメールアドレスの登録などは必要ありません。